社畜だった俺が異世界で温泉宿を始めたら、なぜか女神と魔王が常連客になりました。

制作者: Zelt ラノベ風
第1話 異世界温泉宿開業記
投稿者: Zelt
ブラック企業での残業が、今日も終わらない。
深夜零時を過ぎ、終電も逃したオフィスに、俺一人。
エナジードリンクの空き缶が三本。背筋を伸ばした瞬間、ビキッと腰に痛みが走った。

「……もう、無理だな」

気づけば、手の中のマウスを握ったまま意識が遠のいていった。



目を覚ますと、そこは湯けむりに包まれた岩場の上だった。
湯の香り、耳に響くせせらぎ、そして心地よい風。
見渡す限りの森と、硫黄の匂い。

「おいおい、夢か? ……それとも、死んだ?」

「おめでとうございます、転生です」

声の主に目を向けると、白いワンピースをまとった金髪の女性が立っていた。背には小さな羽。

「私は温泉の女神、ユノ。あなた、よほど疲れていたのね」

「温泉の……女神?」

「そう。あなたにはこの世界で“癒し”を広める使命があります」

女神は微笑みながら指を鳴らす。
すると目の前に、木造の立派な建物が出現した。湯気が立ちのぼる——まぎれもない温泉宿。

「ここを、あなたの宿にします。癒しの宿《ゆのや》としてね」

「……いや、ちょっと待って。俺、経営とかしたこと——」

「大丈夫、やるしかありません♡」

問答無用だった。



数日後。俺は見よう見まねで宿を整え、ようやく一息ついた。
だが、最初の客が現れた瞬間、俺は自分の運命を呪うことになる。

「ふぅ……よくぞ見つけたわね、この隠れ湯」

現れたのは、漆黒のローブをまとった美女。角が生えている。

「ま、魔王……?」

「そう呼ばれてるわ。でも今日は休暇。戦も征服も飽きたの。温泉、入っていい?」

俺が言葉を失っていると、もう一人、輝く光が降りてきた。

「まぁ! 魔王さんもいらしてるんですか?」
温泉の女神ユノ……貴様、また人間界で遊んでるのか」

「遊びじゃありませんよ〜♪ この宿、とっても癒されるんですから」

女神と魔王が、俺の目の前で湯加減を語り合う。
俺はただ、呆然とつぶやいた。

「……俺、なんでこんな修羅場にいるんだ?」

異世界で始めたはずの温泉宿が、
なぜか神と魔の社交場になるとは、このときの俺はまだ知らなかった。
第2話 勇者様ご来店
投稿者: あさり

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