アプレシエイト
制作者:
澪月かんな。
小説設定:
|
連続投稿: 不可
|
投稿権限:
全員
概要
天変地異が起きた日本のどこかの町。平和な世界とは一変、貴重な物資を取り合う日常を過ごしていた大輔は、ある日、「感謝の言葉を述べるとものが一つ消えてしまう」という原因不明の奇病にかかってしまう。絶望の最中、現れたのは大輔の奇病を治せるという若い女性で――
唐突すぎる言葉に、大輔の頭は追いつかなかった。
外の雨音が、まるで嘘のように遠のいていく。
「……何の冗談だ」
掠れた声が漏れた。
しかし、目の前の女性は微笑を崩さなかった。
彼女は年のころ、二十代前半に見えた。
肩までの黒髪は雨でしっとりと濡れ、滴が顎を伝ってコートに落ちる。
だが、その瞳には、危機的状況となったこの世界には似つかわしくない「希望」の色があった。
「あなた、奇病で『ありがとう』が言えないんですよね?」
どうして知っている?
そう問おうとして、大輔は咄嗟に口をつぐんだ。
言葉を発するだけで、何かが消えてしまうかもしれない。
心のどこかで「彼女に何かあったら」と、もう怯えてしまっていた。
「……うなずいてください。はい、そうですね」
女性は勝手に会話を進める。だがその口調には苛立ちがなかった。
まるで、彼の事情をすべて知っているかのようだった。
「でも大丈夫。私なら、あなたの『ありがとう』を失わせない」
意味がわからなかった。
だが、それ以上に不思議だったのは、彼女の放つ言葉が、胸の奥にじんわりと染みてくる感覚だった。
「治療には少し時間がかかります。けど……もしよかったら、私と少しだけ話しませんか?」
「話す」? 冗談じゃない。
たった一言の「ありがとう」で、自分の娘のぬいぐるみが消えたのだ。
それ以降も、家族の手紙、妻との写真、友の遺した日記が、消えていった。
次に話せば、きっと――
「ねえ、言葉って、何のためにあると思いますか?」
彼女が、まっすぐな目で尋ねた。
「私はね、誰かの心を渡すためにあるって、ずっと思ってるんです。たとえば『ありがとう』って言葉は、あなたの温かさを誰かに渡す橋なんです。大切なのはものじゃなくて、そこに込められた気持ち。そう思いませんか?」
彼女の声は、まるで小さな灯火のようだった。
吹き荒れる嵐の中でも、消えることのない火。
大輔は思った。
――この女は、どれだけ多くの人に、そう語ってきたのだろう?
彼女は腰のポーチから、小さな装置のようなものを取り出した。
外の雨音が、まるで嘘のように遠のいていく。
「……何の冗談だ」
掠れた声が漏れた。
しかし、目の前の女性は微笑を崩さなかった。
彼女は年のころ、二十代前半に見えた。
肩までの黒髪は雨でしっとりと濡れ、滴が顎を伝ってコートに落ちる。
だが、その瞳には、危機的状況となったこの世界には似つかわしくない「希望」の色があった。
「あなた、奇病で『ありがとう』が言えないんですよね?」
どうして知っている?
そう問おうとして、大輔は咄嗟に口をつぐんだ。
言葉を発するだけで、何かが消えてしまうかもしれない。
心のどこかで「彼女に何かあったら」と、もう怯えてしまっていた。
「……うなずいてください。はい、そうですね」
女性は勝手に会話を進める。だがその口調には苛立ちがなかった。
まるで、彼の事情をすべて知っているかのようだった。
「でも大丈夫。私なら、あなたの『ありがとう』を失わせない」
意味がわからなかった。
だが、それ以上に不思議だったのは、彼女の放つ言葉が、胸の奥にじんわりと染みてくる感覚だった。
「治療には少し時間がかかります。けど……もしよかったら、私と少しだけ話しませんか?」
「話す」? 冗談じゃない。
たった一言の「ありがとう」で、自分の娘のぬいぐるみが消えたのだ。
それ以降も、家族の手紙、妻との写真、友の遺した日記が、消えていった。
次に話せば、きっと――
「ねえ、言葉って、何のためにあると思いますか?」
彼女が、まっすぐな目で尋ねた。
「私はね、誰かの心を渡すためにあるって、ずっと思ってるんです。たとえば『ありがとう』って言葉は、あなたの温かさを誰かに渡す橋なんです。大切なのはものじゃなくて、そこに込められた気持ち。そう思いませんか?」
彼女の声は、まるで小さな灯火のようだった。
吹き荒れる嵐の中でも、消えることのない火。
大輔は思った。
――この女は、どれだけ多くの人に、そう語ってきたのだろう?
彼女は腰のポーチから、小さな装置のようなものを取り出した。
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