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【水平思考小説】密室の死

制作者: レュー
第1話 【問題編】ある密室の死
投稿者: レュー
仕事から帰宅した私は、玄関の扉を開けた瞬間、異変に気づいた。

静かすぎる。

いつもなら聞こえてくるはずの、あの微かな音がない。

リビングへ足を踏み入れ、私は息を呑んだ。

床一面に、ガラスの破片が散乱していた。鋭い光を放つ無数の欠片の間を縫うように、水が広がっている。

そして、その中心に――メアリーがいた。

動かない。息をしていない。

メアリーは、死んでいた。

彼女は、私にとってかけがえのない存在だった。一人暮らしの私を癒してくれる、かけがえのない同居人。仕事で疲れて帰ってきても、彼女の姿を見るだけで心が安らいだ。大きな瞳でじっとこちらを見つめてくる様子が、たまらなく愛おしかった。

彼女は決しておしゃべりではなかった。けれど、それでよかった。そこにいてくれるだけで、私は満たされていたから。

私が今日家を出た時は元気だったのだ!

私は慌てて部屋中を確認した。窓には鍵がかかっている。玄関の扉も、私が開けるまで確かに施錠されていた。外部から誰かが侵入した形跡はない。

完全な密室。

けれどこれは、自殺ではない。病死などでもない。
事件ではないから警察を呼ぶこともできない!

割れたガラス。床に広がる水。そして、冷たくなったメアリー。

「……どうして」

私は呟いた。震える声で。

――メアリーの死因は、何だったのだろうか?
第2話 【解答編】密室の死因
投稿者: レュー
呆然と立ち尽くす私の視界に、ふと小さなテーブルが映った。

窓辺に置かれたそのテーブルの上に、丸い水の跡がある。今朝まで確かにそこにあったはずのものが、今はない。

そしてすべてを理解した。

◆◆◆

床に散らばるガラスの破片。それは窓のものではなかった。丸みを帯びた、薄い曲面ガラス。

広がる水。それは誰かの涙などではなかった。

私はゆっくりと膝をつき、冷たい水たまりの中心に横たわる小さな体を見つめた。

金色に輝いていた鱗は、もう光を失っている。優雅に揺れていた尾鰭は、力なく床に貼りついていた。

メアリー。

私の愛した金魚。

◆◆◆

2時間前、この街は震度3の地震に見舞われた。

職場で揺れを感じたとき、私は少し嫌な予感がした。けれど、震度3。大したことはないと、自分に言い聞かせた。

その小さな揺れが、テーブルの端に置かれた金魚鉢を床に落とした。

水を失ったメアリーは、息ができなくなった。小さな口を何度も開閉させながら、助けを呼ぶこともできないまま、彼女は一人で逝ってしまった。

2時間。

私が帰るまでの、長い長い二時間を、メアリーは苦しみながら待っていたのかもしれない。

◆◆◆

事件ではなかった。

自殺でもなかった。

ただ、金魚鉢が割れて、一匹の金魚が死んだ。

それだけのこと。

それだけの――小さな、けれど私には何より大きな悲劇だった。

私は静かにメアリーを掌に乗せた。

冷たくなった小さな体は、驚くほど軽かった。

「……ごめんね、メアリー」

涙が頬を伝う。

窓の外では、夕陽が静かに沈んでいく。メアリーが好きだった、あの穏やかな光が、最後に彼女の亡骸を優しく包んでいた。
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