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しらさぎ館

制作者: 冬至梅
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第2話 アンナお嬢様
冬至梅
2025年12月11日 13:41 | 58
ペニントン氏の挨拶を受け、山高帽の紳士――弁護士のジョナサン・マクリーン氏は、深く頭を下げました。

「これはご丁寧に。長旅で遅くなり、大変恐縮です。こちらが、フェアボーン家のご令嬢、アンナ・フェアボーン様です」

 ペニントン氏は、アンナという少女へ向き直ると、言葉を選ぶようにゆっくりと話しかけました。

「アンナお嬢様……ご両親のご逝去、心よりお悔やみ申し上げます。エドワード様もクララ様も……さぞご無念でいらしたことでしょう」

 しかし、アンナは小さく瞬きをしただけで、返事をしませんでした。その黒い瞳には、悲しみも不安も浮かばず、どこか遠い場所を見つめるような不思議な空虚さがありました。

 少女の沈黙を補うように、マクリーン氏が静かに続けました。

「エドワード・フェアボーン氏は、インドで資産を築かれた立派な紳士でした。しかし……ご存じのように、先の大戦で戦死されまして。訃報が届いた折、夫人はご旅行中で、熱病に倒れ、すでに……」

「……承知しております」

 ペニントン氏の目には、深い哀悼の色が浮かびました。

「戦争が終わり、イギリスの情勢が落ち着くまで、アンナお嬢様は奥様の旧友のお宅に預けられておりました」

 マクリーン氏がそう付け加えましたが、アンナは自分の名前が呼ばれても表情を変えず、まるで遠い場所の誰かの話を聞いているかのように、うつむいたままでした。
 その様子に、ペニントン氏はそっと視線を落としました。

 ――こんな小さな子が両親の死を受けて、何も感じないことがあるだろうか?

 胸の内に、ひそかな戸惑いが広がりました。

「……アンナお嬢様。どうぞお車へ。館までは少し距離がございます。」

 優しく差し伸べられた手を、アンナは警戒するように一瞬見つめてから、ようやく恐る恐る取ります。

 駅舎の外へ出ると、雪まじりの雨はなお降り続き、凍えるような風が吹き下ろしていました。ペニントン氏は、外套の裾を押さえながら、少女を守るようにその横を歩き始めました。
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このパートからの分岐 (1)
灰色の村

ペニントン氏は帽子のつばを押さえながら、停めてあった黒塗りの自動車へアンナを導きました。扉が静かに開...

冬至梅 冬至梅
12/15 19:45
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第1話 1945年十二月、ウェールズ南部にて 冬至梅 0 63
・1945年十二月の昼下がり、灰色の雲が空をすっかり覆い、雪まじりの細い雨が絶え間なく...
第2話 アンナお嬢様 冬至梅 0 59
・ペニントン氏の挨拶を受け、山高帽の紳士――弁護士のジョナサン・マクリーン氏は、深く...
NEW 第3話 灰色の村 冬至梅 0 43
・ペニントン氏は帽子のつばを押さえながら、停めてあった黒塗りの自動車へアンナを導き...
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