その日、私は最悪の気分だった。
朝から降り続く雨。傘を持ってこなかったせいで、駅からの帰り道でびしょ濡れ。おまけにスマホの充電は3%。バイト先の先輩には「もうちょっと気が利くようになってね」なんて嫌味を言われるし、もう何もかもがダメな一日だった。
コンビニの自動ドアをくぐると、エアコンの冷たい風が濡れた肌に突き刺さる。
「さむっ……」
思わず声が出た。
とりあえず温かいものが欲しくて、肉まんのショーケースに向かう。残り一個。よかった、まだある。
「すみません、肉まんひとつ──」
「肉まんください」
声が重なった。
隣を見ると、同じくびしょ濡れの男の人が立っていた。
黒い髪から雫がぽたぽた落ちてる。背が高くて、なんか……ちょっとだけ、かっこいい。年は私より少し上かな。大学生くらい?
「あ」
「あ」
二人して固まる。
店員のおばちゃんが困った顔で私たちを見比べた。
「……ラスト一個なんだけど、どうする?」
沈黙。
気まずい。
私はこういう時、絶対に譲ってしまうタイプだ。だって揉めるの面倒だし。
「……どうぞ」
そう言おうとした瞬間、彼が口を開いた。
「じゃあ、半分こしません?」
「……は?」
「半分こ。俺が買うから、半分あげます。その代わり」
彼はショーケースの横にある小さなイートインスペースを指差した。
「ちょっとだけ話し相手になってくれませんか。俺も今日、最悪な一日だったんで」
何言ってるんだろう、この人。
知らない人とコンビニで肉まん半分こって、どういう状況?
でも。
なんでだろう。
その困ったような笑顔が、少しだけ、私の冷えた心をあたためた気がした。
「……いいですけど。変な人じゃないですよね?」
「たぶん」
「たぶんって何」
彼が笑った。雨の音がやけに優しく聞こえた。
これが、私と彼の──名前も知らない男の人との、最初の出会いだった。
朝から降り続く雨。傘を持ってこなかったせいで、駅からの帰り道でびしょ濡れ。おまけにスマホの充電は3%。バイト先の先輩には「もうちょっと気が利くようになってね」なんて嫌味を言われるし、もう何もかもがダメな一日だった。
コンビニの自動ドアをくぐると、エアコンの冷たい風が濡れた肌に突き刺さる。
「さむっ……」
思わず声が出た。
とりあえず温かいものが欲しくて、肉まんのショーケースに向かう。残り一個。よかった、まだある。
「すみません、肉まんひとつ──」
「肉まんください」
声が重なった。
隣を見ると、同じくびしょ濡れの男の人が立っていた。
黒い髪から雫がぽたぽた落ちてる。背が高くて、なんか……ちょっとだけ、かっこいい。年は私より少し上かな。大学生くらい?
「あ」
「あ」
二人して固まる。
店員のおばちゃんが困った顔で私たちを見比べた。
「……ラスト一個なんだけど、どうする?」
沈黙。
気まずい。
私はこういう時、絶対に譲ってしまうタイプだ。だって揉めるの面倒だし。
「……どうぞ」
そう言おうとした瞬間、彼が口を開いた。
「じゃあ、半分こしません?」
「……は?」
「半分こ。俺が買うから、半分あげます。その代わり」
彼はショーケースの横にある小さなイートインスペースを指差した。
「ちょっとだけ話し相手になってくれませんか。俺も今日、最悪な一日だったんで」
何言ってるんだろう、この人。
知らない人とコンビニで肉まん半分こって、どういう状況?
でも。
なんでだろう。
その困ったような笑顔が、少しだけ、私の冷えた心をあたためた気がした。
「……いいですけど。変な人じゃないですよね?」
「たぶん」
「たぶんって何」
彼が笑った。雨の音がやけに優しく聞こえた。
これが、私と彼の──名前も知らない男の人との、最初の出会いだった。