金銀の縁 〜信一郎再起譚〜
制作者:
冬至梅
小説設定:
|
連続投稿: 不可
|
投稿権限:
全員
|
完結数: 30話で完結
概要
江戸・日本橋。
豪商『仙石屋』の主・久兵衛は、不正の汚名を着せられ、獄中で謎の死を遂げた。
店を叔父・次郎兵衛に乗っ取られ、名誉と居場所を失った兄妹の行末やいかに。
◆信一郎:主人公。仙石屋の長男
◆美:信一郎の妹
◆十平次:信一郎の相棒。上方出身の元漁師。
◆仙石屋久兵衛:信一郎と美の父。故人
◆次郎兵衛:信一郎と美の叔父
豪商『仙石屋』の主・久兵衛は、不正の汚名を着せられ、獄中で謎の死を遂げた。
店を叔父・次郎兵衛に乗っ取られ、名誉と居場所を失った兄妹の行末やいかに。
◆信一郎:主人公。仙石屋の長男
◆美:信一郎の妹
◆十平次:信一郎の相棒。上方出身の元漁師。
◆仙石屋久兵衛:信一郎と美の父。故人
◆次郎兵衛:信一郎と美の叔父
葬儀が終わり、弔問客が引いていくと、店の奥座敷には重い沈黙だけが残った。
美は茶を淹れながら、ちらりと兄の横顔を見た。信一郎は畳の目を見つめたまま、何も言わない。
「……お兄ちゃん」
美が声をかけると、信一郎はようやく顔を上げた。
「なんだ」
「怒ってる? 私が……もっと早く手紙を出せていれば、お父様に会えたかもしれないのに」
信一郎は首を横に振った。
「俺が勝手に出ていったんだ。お前のせいじゃない」
その言葉に、美は少しだけ肩の力を抜いた。けれど、胸の奥にあるわだかまりは消えない。
十平次が遠慮がちに口を開いた。
「なあ、さっきの話やけど……新しい店っちゅうのは、本気なんか?」
美は頷いた。
「本気よ。お父様が……万が一のときのためにって、私にだけ教えてくれたの。へそくり、っていうには大きすぎるけど」
「どこにあんねん、そないな金」
「それは……」
美は言いかけて、口をつぐんだ。信一郎がそっと制したのだ。
「十平次。それは後だ」
「……せやな。すまん」
三人の間に、再び静けさが落ちる。
美はそっと兄の手に自分の手を重ねた。冷たくて、少し震えている。
「お兄ちゃん。私ね、ずっと待ってた。いつか帰ってきてくれるって、信じてた」
信一郎は何も言わなかった。ただ、妹の手を握り返した。それだけで、美には十分だった。
障子の向こうで、日が傾き始めていた。
美は茶を淹れながら、ちらりと兄の横顔を見た。信一郎は畳の目を見つめたまま、何も言わない。
「……お兄ちゃん」
美が声をかけると、信一郎はようやく顔を上げた。
「なんだ」
「怒ってる? 私が……もっと早く手紙を出せていれば、お父様に会えたかもしれないのに」
信一郎は首を横に振った。
「俺が勝手に出ていったんだ。お前のせいじゃない」
その言葉に、美は少しだけ肩の力を抜いた。けれど、胸の奥にあるわだかまりは消えない。
十平次が遠慮がちに口を開いた。
「なあ、さっきの話やけど……新しい店っちゅうのは、本気なんか?」
美は頷いた。
「本気よ。お父様が……万が一のときのためにって、私にだけ教えてくれたの。へそくり、っていうには大きすぎるけど」
「どこにあんねん、そないな金」
「それは……」
美は言いかけて、口をつぐんだ。信一郎がそっと制したのだ。
「十平次。それは後だ」
「……せやな。すまん」
三人の間に、再び静けさが落ちる。
美はそっと兄の手に自分の手を重ねた。冷たくて、少し震えている。
「お兄ちゃん。私ね、ずっと待ってた。いつか帰ってきてくれるって、信じてた」
信一郎は何も言わなかった。ただ、妹の手を握り返した。それだけで、美には十分だった。
障子の向こうで、日が傾き始めていた。
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