童話異聞録その1「浦島太郎」

制作者: A5 二次創作
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第2話 喋るミドリガメ、その名はカメーリア
蒼月(そうげつ)
2025年10月30日 11:33
太郎は手のひらの上の小さな亀を、じーっと見ていた。
(これ、どう見てもミドリガメだよな...。祭りのやつが捨てられたのか? かわいそうに)
こんな小さい体で、熱い砂浜にいたら、すぐに死んじまう。
「よし。近くの川にでも放してやるか」
太郎がそう決めて、もう一度歩き出そうとした、まさにその時。

「おい、貴様」

「...へ?」
太郎は足を止めた。
あたりをキョロキョロと見回す。子供たちはもういない。広い砂浜には太郎だけだ。
波の音が、ざあざあうるさい。

「貴様だ、貴様。そこの気の抜けたツラをしてる漁師よ」
今度ははっきりと聞こえた。
高くて、やけにエラそうな、女の人の声?
声は、すごく近い。
まさか、と。
太郎はビクビクしながら、手のひらに視線を落とした。

手のひらの上の、ミドリガメ。
そいつが、小さな黒い目で、じろりと太郎を睨み上げていた。

「...え...」
太郎の口が、アホみたいに開いた。

「...えええええええええええッ!?」

夕方の浜辺に、太郎のデカい叫び声が響いた。
太郎はびっくりして、危うく亀を放り投げそうになる。
「しゃ、喋った...!? 亀が、このミドリガメがぁ!」
「うるさいぞ、愚民が! 耳がキーンとなるわ!」
ミドリガメは、小さな前足でと甲羅を叩くみたいな動きをした。
「わらわを落としたら万死に値するぞ!」

「よく聞け、そこな漁師よ。わらわは、竜宮城におわす、麗しき乙姫様の...えーっと、そう、側近中の側近! カメーリアである!」
「かめ...?」
「カ・メー・リ・アじゃ! 覚えておけ!」

自分で「カメーリア」と名乗ったミドリガメは、ふんと胸を(あるのか?)そらせた。
太郎はもう頭がぐちゃぐちゃだった。
竜宮城? 乙姫様?
それって、海の底にあるっていう、あの伝説の?
「いや、でも...お前、どう見てもミドリガメだろ。海の亀じゃなくて、川とかの...」
「カチン!」
太郎が言い終わる前に、カメーリアが鋭い声を出した。

「ミドリガメ、ミドリガメと五月蠅うるさいのう! これは仮の姿じゃ! 陸での隠密行動用にチューニングされた、最新鋭のボディなのじゃ!」
「ちゅーにんぐ...?」
聞いたこともない言葉だったが、カメーリアの勢いがすごくて、太郎は「はあ」としか言えない。

「とにかく!」
カメーリアは言った。
「童どもに捕まり、危ないところだった。貴様に助けられた義理はある」
「お、おう...」
「礼がしたい。わらわの城、竜宮城へ招待してやろう。さあ、海へ連れて行け!」
「...海?」

太郎は、手のひらのカメーリアを見た。
(いや、どう見てもミドリガメだろ...)
(こいつ、海に入ったら死ぬんじゃないか...?)

「何をためらっている! 早くしろ!」
「いや、しかし...」
「ええい、うるさい! わらわは乙姫様の使いじゃぞ! とにかく、海じゃ! 海に連れて行けば、このボディの『真の力』が解放されるはずなのじゃ!」

何を言ってるのか分からなくすごく不安になったけど、喋る亀っていうワケのわからない状況に、太郎はもう逆らえなかった。
「...わ、わかった。行けばいいんだろ、行けば」
「うむ。話が早くて良い」

こうして浦島太郎は、やたらエラそうな、手のひらサイズのミドリガメ(自称カメーリア)を乗せたまま、言われた通りに海へと歩き出した。
退屈だと思ってた毎日が、いきなりとんでもないことになってきた。
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海に帰れば

太郎は波打ち際までやって来た。 手のひらの上で、カメーリアは目を輝かせている。 「おお...。海じゃ...

クロマル クロマル
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太郎は波打ち際までやって来た。 手のひらの上で、カメーリアは目を輝かせている。 「おお...。海じゃ...

クロマル 1

「しっかり掴まっておれよ」カメーリアの言葉を合図に、甲羅の輝きが極限まで高まった。 太郎の視界が、光...

ケンヂ 0

乙姫の部屋を出ると、カメーリアが太郎の肩に飛び乗ってきた。 「さあさあ、貴様を歓迎する宴の準備が整...

蒼月(そうげつ) 0
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