童話異聞録その1「浦島太郎」

制作者: A5 二次創作
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第3話 海に帰れば
クロマル
2025年11月05日 13:05
太郎は波打ち際までやって来た。
手のひらの上で、カメーリアは目を輝かせている。

「おお...。海じゃ、海じゃ!」
「本当に大丈夫なのか? お前、どう見てもミドリガメだぞ」
「くどいぞ愚民! わらわの力を疑うか!」
手のひらのカメーリアは、相変わらずエラそうだった。

太郎は仕方なく、ゆっくりと海へ足を踏み入れた。
冷たい波が、足首を撫でる。

「よし、そこまででよい。わらわを海面に置け」
「...置くって、沈むんじゃないか?」
「黙れ! やれと言ったらやれ!」

太郎は恐る恐る、手のひらを海面に近づけた。
ちゃぷん。
カメーリアが、波の上に滑り落ちる。

一瞬、沈みかけた。
「ほら!」
太郎が手を伸ばそうとした、その瞬間——

ゴオオオオオオオッ!

海面が、光った。
緑色の、眩しい光。

「うわっ!」
太郎は思わず目を閉じた。
波が激しく揺れる。いや、揺れるなんてもんじゃない。
まるで何か巨大なものが、海の底から浮かび上がってくるような...

「き、貴様、下がれ! 吹き飛ぶぞ!」
カメーリアの声が、さっきよりずっと大きく響いた。

太郎が目を開けると——

「...嘘だろ」

そこには、もう手のひらサイズの亀はいなかった。
いるのは、太郎の背丈の、いや、それよりもずっと大きな、巨大な亀。
いや、亀なんて言葉じゃ足りない。
これは...怪獣?ガ◯ラ!?

緑色に輝く甲羅。
ゴツゴツとした四肢。
鋭い爪。
そして、太い首の先には、さっきまでの愛らしさのかけらもない、鋭利な顔つき。

「どうじゃ、漁師よ! これがわらわの『海戦用ボディ』じゃ!」 地鳴りのような、エラそうな声が響いた。

カメーリアの声が、低く、太く響いた。
甲羅は太陽の光を受けて、ギラギラと金属めいた輝きを放っている。
まるで、伝説の守護獣しゅごじゅうか何かのようだった。

「お、おい...。お前、何メートルあるんだよ...」
「細かいことは気にするな。さあ、乗れ」
「乗れって...」

カメーリアは、どっしりと波間に浮かんでいる。
その背中——巨大な甲羅の上は、ちょうど人が乗れそうな平らなスペースになっていた。

「早くせい。日が暮れるぞ」
「いや、待て待て。これ、本当に乗って大丈夫なのか?」
「案ずるな。竜宮城まで、ひとっ飛びじゃ! ...たぶん!」

(また「たぶん」って言った...)

太郎は覚悟を決めた。
もうここまで来たら、引き返せない。
ざぶざぶと海に入り、よじ登る。
甲羅の表面は思ったより温かく、ざらざらしていた。

「しっかり掴まっておれよ」
「おい、ちょっと——」

言い終わる前に、カメーリアが動いた。

ゴオオオオオオオッ!

凄まじい速さで、海を駆ける。
いや、駆けるなんてもんじゃない。
波を蹴散らし、飛ぶように進んでいく。

「うわああああああああッ!」
太郎は甲羅に必死にしがみついた。
潮風が、顔を叩く。
空が、海が、ぐるぐる回る。

「はーっはっはっは! どうじゃ、わらわの力は!」
「速い、速すぎるッ!」
「まだまだこんなものではないわ! 見ておれ!」

カメーリアの甲羅が、さらに光り始めた。
——まるで、空でも飛ぶかのように。

太郎は、訳がわからないまま、ただ必死に巨大亀の背にしがみついていた。
竜宮城なんて、本当にあるのだろうか。

それは、太郎にも、まだわからなかった。
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ようこそ竜宮城へ!深海のドーム

「しっかり掴まっておれよ」カメーリアの言葉を合図に、甲羅の輝きが極限まで高まった。 太郎の視界が、光...

ケンヂ ケンヂ
11/06 12:14
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「しっかり掴まっておれよ」カメーリアの言葉を合図に、甲羅の輝きが極限まで高まった。 太郎の視界が、光...

ケンヂ 0

乙姫の部屋を出ると、カメーリアが太郎の肩に飛び乗ってきた。 「さあさあ、貴様を歓迎する宴の準備が整...

蒼月(そうげつ) 0
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