童話異聞録その1「浦島太郎」
制作者:
A5
二次創作
小説設定:
|
連続投稿: 可
|
投稿権限:
全員
|
完結数: 10話で完結
概要
「浦島太郎」のお話をベースに、違う結末にしていきたいと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
「しっかり掴まっておれよ」カメーリアの言葉を合図に、甲羅の輝きが極限まで高まった。 太郎の視界が、光で塗りつぶされる。 次の瞬間、太郎の体を、今まで感じたことのない強烈な圧迫感が襲った。 「ぐっ……!」 海中を進んでいる感覚ではない。 波の抵抗も、水の音も、すべてが消え去っていた。 これは……空間を「跳んで」いる?
どれくらいの時間が経ったのか。体感ではほんの一瞬、だが意識は数分飛んでいた気もする。 ふっと体が軽くなり、急激な減速感とともに視界が戻った。
「……ここ、は」 太郎は息を呑んだ。 目の前に広がっていたのは、海の底に鎮座する巨大なドーム都市だった。 ガラスか水晶でできたような透明なドームが、深海の途方もない圧力から内部を守っている。ドームの内側には、地上と見紛うばかりの建物が整然と並び、柔らかな光を放っていた。 どう見ても、人間の技術で作られたものではない。
「着いたぞ。ここがわらわの城、竜宮城じゃ」 カメーリアは、ドームに設けられた巨大な水密扉の前で停止した。 ゴオオ、と重低音が響き、海水が急速に排水されていく。 カメーリアごと太郎は、ドーム内部の白い船渠へと迎え入れられた。
太郎が甲羅から滑り降りると、カメーリアの巨大な体が、まるで陽炎のように揺らぎ、収縮していく。 「すげえ……。さっきのデカいの、どうなってんだ?」 「ふん。わらわの『海戦用ボディ』は、高密度エネルギーで構成されておる。これは陸での隠密行動用ボディじゃ」元の手のひらサイズに戻ったカメーリアは、得意げにそう言った。 (エネルギーで構成? ますます訳がわからん)
「さあ、乙姫様がお待ちかねだ。案内する」 カメーリアに促され、太郎はドックから続く無菌室のような通路を進んだ。 通路は清潔で、空気も澄んでいる。だが、どこか無機質で、人の気配がしなかった。まるで、巨大な研究所か何かのようだ。
やがて、一番奥の、ひときわ豪華な意匠の扉の前に着いた。 「乙姫様。浦島太郎を連れて参りました」 「……入りなさい」
静かだが、妙に張りのある、凛とした声がした。 扉が自動で滑るように開く。
部屋の中央。 そこには、伝統的な十二単とは似ても似つかぬ、白衣のような、それでいて儀礼服のようにも見える不思議な服を着た女が座っていた。 美しい。それは間違いない。 だが、その美しさは、作り物めいたものではなかった。 むしろ逆だ。 目の下にはうっすらと隈があり、完璧に整えられた長い黒髪とは裏腹に、その表情はひどく疲れているように見えた。
「……あなたが、浦島太郎さん」 乙姫は、手元の光る板のようなものから顔を上げた。 「はじめまして。私がここの責任者、乙姫です」 「あ、どうも……。浦島太郎です」
「カメーリア。ご苦労様。また『定期観測』中にトラブル?」 「はっ! い、いえ、その……。地上の童どもに捕まりまして……」「……またですか。あなたのその『隠密行動用ボディ』、もう少しどうにかならないの? 脆弱すぎます。次の予算会議で議題に上げさせてもらいますよ」 「うぐぅ…」
さっきまでの威勢はどこへやら、カメーリアが小さくなっている。 乙姫はため息を一つつき、太郎に向き直った。
「すみません、内輪の話で。太郎さん、カメーリアを助けていただき、感謝します」 乙姫は、そこで初めて、ふわりと笑った。 その笑顔は、さっきまでの疲れた管理者の顔とは違い、どこか人懐っこい、不思議な魅力があった。
「ここは竜宮城。見ての通り、少し……ええ、特殊な場所です」 「(どう見ても特殊すぎる……)」 「あなたは『お客様』です。歓迎します。何もないところですが、ゆっくりしていってください」
乙姫はそう言ったが、太郎は見逃さなかった。 彼女が笑った瞬間、その瞳の奥に、歓迎とは別の……何かを値踏みするような、鋭い光が宿ったのを。
(この人、何か隠してる……? そもそも、なんでカメーリアは『定期観測』なんてしてたんだ?) 太郎の胸に、漠然とした不安と、それ以上に強い好奇心が湧き上がっていた。
どれくらいの時間が経ったのか。体感ではほんの一瞬、だが意識は数分飛んでいた気もする。 ふっと体が軽くなり、急激な減速感とともに視界が戻った。
「……ここ、は」 太郎は息を呑んだ。 目の前に広がっていたのは、海の底に鎮座する巨大なドーム都市だった。 ガラスか水晶でできたような透明なドームが、深海の途方もない圧力から内部を守っている。ドームの内側には、地上と見紛うばかりの建物が整然と並び、柔らかな光を放っていた。 どう見ても、人間の技術で作られたものではない。
「着いたぞ。ここがわらわの城、竜宮城じゃ」 カメーリアは、ドームに設けられた巨大な水密扉の前で停止した。 ゴオオ、と重低音が響き、海水が急速に排水されていく。 カメーリアごと太郎は、ドーム内部の白い船渠へと迎え入れられた。
太郎が甲羅から滑り降りると、カメーリアの巨大な体が、まるで陽炎のように揺らぎ、収縮していく。 「すげえ……。さっきのデカいの、どうなってんだ?」 「ふん。わらわの『海戦用ボディ』は、高密度エネルギーで構成されておる。これは陸での隠密行動用ボディじゃ」元の手のひらサイズに戻ったカメーリアは、得意げにそう言った。 (エネルギーで構成? ますます訳がわからん)
「さあ、乙姫様がお待ちかねだ。案内する」 カメーリアに促され、太郎はドックから続く無菌室のような通路を進んだ。 通路は清潔で、空気も澄んでいる。だが、どこか無機質で、人の気配がしなかった。まるで、巨大な研究所か何かのようだ。
やがて、一番奥の、ひときわ豪華な意匠の扉の前に着いた。 「乙姫様。浦島太郎を連れて参りました」 「……入りなさい」
静かだが、妙に張りのある、凛とした声がした。 扉が自動で滑るように開く。
部屋の中央。 そこには、伝統的な十二単とは似ても似つかぬ、白衣のような、それでいて儀礼服のようにも見える不思議な服を着た女が座っていた。 美しい。それは間違いない。 だが、その美しさは、作り物めいたものではなかった。 むしろ逆だ。 目の下にはうっすらと隈があり、完璧に整えられた長い黒髪とは裏腹に、その表情はひどく疲れているように見えた。
「……あなたが、浦島太郎さん」 乙姫は、手元の光る板のようなものから顔を上げた。 「はじめまして。私がここの責任者、乙姫です」 「あ、どうも……。浦島太郎です」
「カメーリア。ご苦労様。また『定期観測』中にトラブル?」 「はっ! い、いえ、その……。地上の童どもに捕まりまして……」「……またですか。あなたのその『隠密行動用ボディ』、もう少しどうにかならないの? 脆弱すぎます。次の予算会議で議題に上げさせてもらいますよ」 「うぐぅ…」
さっきまでの威勢はどこへやら、カメーリアが小さくなっている。 乙姫はため息を一つつき、太郎に向き直った。
「すみません、内輪の話で。太郎さん、カメーリアを助けていただき、感謝します」 乙姫は、そこで初めて、ふわりと笑った。 その笑顔は、さっきまでの疲れた管理者の顔とは違い、どこか人懐っこい、不思議な魅力があった。
「ここは竜宮城。見ての通り、少し……ええ、特殊な場所です」 「(どう見ても特殊すぎる……)」 「あなたは『お客様』です。歓迎します。何もないところですが、ゆっくりしていってください」
乙姫はそう言ったが、太郎は見逃さなかった。 彼女が笑った瞬間、その瞳の奥に、歓迎とは別の……何かを値踏みするような、鋭い光が宿ったのを。
(この人、何か隠してる……? そもそも、なんでカメーリアは『定期観測』なんてしてたんだ?) 太郎の胸に、漠然とした不安と、それ以上に強い好奇心が湧き上がっていた。
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