童話異聞録その1「浦島太郎」

制作者: A5 二次創作
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第5話 歓迎の宴、そして...
蒼月(そうげつ)
2025年11月12日 13:01
乙姫の部屋を出ると、カメーリアが太郎の肩に飛び乗ってきた。

「さあさあ、貴様を歓迎する宴の準備が整っておるぞ!」

案内されたのは、円形の大広間だった。透明な天井の向こうには深海の暗闇。時折、発光する魚の群れが光の筋を描いていく。

大きな卓には、色とりどりの料理が並んでいる。貝や海藻、魚を使った、見たこともない美しい料理たち。

「すごい...」

ぱたぱたと足音が近づいてきた。タイやヒラメ、イカやタコ。海の生き物たちが人間のような姿で歩いている。頭にひれがあったり、体の一部が鱗に覆われていたりするが。

「ようこそ、浦島太郎様!」

笑顔で迎えられ、太郎は少し照れくさくなった。

宴が始まる。音楽が流れ、料理が運ばれてくる。

そして何より、カメーリアがはしゃいでいた。

「見たか見たか、太郎! この『深海真珠のムース』は絶品じゃぞ!」
「おい、食べすぎだろ」
「うるさいのう! わらわは日々激務なのじゃ! たまの宴会くらい好きにさせろ!」

肩の上でぷりぷりと怒るカメーリアを見て、太郎はくすりと笑った。

(なんだ。みんな、いい奴らじゃないか)

宴の中央には、乙姫も姿を見せていた。水色の衣装に着替え、髪飾りがきらきらと輝いている。

「どうですか? お口に合いますか?」
「はい! とても美味しいです」
「それは良かった。カメーリアがあなたを連れてきてくれて、本当に助かりました」
「助かった...?」

太郎が聞き返そうとしたが、乙姫はすっと視線を逸らした。

「ふふ、気にしないでください。さあ、もっと楽しんで」

乙姫は住人たちのほうへ歩いていった。笑いながら、宴を盛り上げている。

(優しい人だな...)

でも、何かが引っかかる。

乙姫の視線が時々、太郎のほうをちらりと向ける。まるで何かを確認するように。そして広間の隅で、例の光る板を手に取り、指で何かを操作していた。その目つきは真剣そのもので、鋭く、そして冷たかった。

太郎は気づかないふりをした。

(なんで、俺をこんなに歓迎してくれるんだ?)
(カメーリアを助けただけなのに...)

「太郎、どうした? 顔色が悪いぞ」

カメーリアが頬をぺちぺちと叩いた。

「...いや、なんでもない」
「本当か?」
「大丈夫だって」

太郎は無理やり笑顔を作った。

宴は深夜まで続いた。みんな楽しそうで、カメーリアははしゃぎまくり、乙姫はにこやかに微笑んでいた。

でも太郎の胸には、ずっと小さな違和感が残り続けた。

その夜、寝室に案内された時、ふと振り返ると廊下の奥に乙姫の姿が見えた。光る板を手に持ち、真剣な顔で見つめている。その横顔は、宴の時とは全く違う、冷たくて鋭いものだった。

(やっぱり、何かある...)

太郎はそっと扉を閉めた。

明日、もう少し探ってみよう。そう心に決めて、深海の静けさの中、眠りについた。
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