一少年の夏休み

制作者: あさり 短文
第1話 蝉時雨とゲーム機
投稿者: あさり
父さんの声で顔を上げると、古びた木造の家がそこにあった。おばあちゃんの家。

車から降りた瞬間、ジージーと鳴くセミの声が全身にぶつかってきた。東京のセミより、なんかうるさい。

縁側に荷物を置いて、とりあえずポータブルゲーム機の電源を入れる。でも、車の中でずっとやっていたせいで、もうレベル上げにも飽きてきた。

(一週間、ここで何しよう……)

目の前に広がるのは、どこまでも緑色の田んぼだけ。コンビニも、友達の家も、何もない。

僕は、鳴りやまない蝉時雨せみしぐれを聞きながら、ちょっとだけ途方にくれた。
第2話 麦茶とおばあちゃん
投稿者: あさり
どれくらいの間、縁側でぼんやりしていただろうか。「ほら、麦茶。冷たいうちに飲みんさい」 優しい声と一緒に、お盆に乗ったグラスが目の前に差し出された。おばあちゃんだ。

グラスには氷がこれでもかと入っていて、その表面にはびっしりと水滴がついていた。
(そういえば、ここに来たのは初めてじゃなかったな)
小学2年の頃にも来たことがあるらしい。でも、おばあちゃんの顔も、この家の匂いも、ぼんやりとしか思い出せない。

受け取ったグラスは、驚くほど冷たかった。 一口飲むと、香ばしい味が口に広がる。 「……ん。うまい」 思わず声が出た。さっきまで鳴りやまない蝉にイライラしていたのが、少しだけマシになった気がした。
第3話 神社にて
投稿者: あさり
僕は麦わら帽子をかぶって、サンダルで縁側から飛び降りた。 「あまり遠くに行くなよー」 お父さんの声が背中越しに聞こえたけど、僕は「はーい」と適当に返事して、田んぼのあぜ道をまっすぐ進んだ。

暑い。セミの声がシャワーみたいだ。 田んぼと、雑木林。それしかない。

しばらく行くと、本当に小さな神社があった。 鳥居は赤色がはげてるし、石段にはコケがびっしり。

(うわ、なんか出そう……)

でも、ここまで来ちゃったし。僕は石段を数えながら登った。 境内の奥には、古びたお社がポツンとあるだけ。 シーンとしてて、さっきまでのセミの声が嘘みたいだ。

「……だれか、いんの?」

思わず声が出た。 そしたら、お社の影から、ガサッて音がした。
小説TOPに戻る