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童話異聞録「桃太郎」

制作者: A5
第1話 川上からの贈り物
投稿者: A5
昔々あるところにお爺さんとお婆さんがいました。

お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
穏やかな昼下がり、川のせせらぎだけが聞こえる静かな場所です。
お婆さんが洗濯物を洗っていると、川上から何かが流れてきました。

どんぶらこ、どんぶらこ。

水面を揺らして近づいてくるのは、一つの桃でした。
お婆さんは手を止めて、それをじっと見つめました。 どんぶらこという音からとっても大きな桃を想像しましたが、けれどお婆さんの目の前に流れてきたのは、片手でひょいと掴めそうな、ごく普通の大きさの桃でした。

「あらあら、可愛らしい桃だこと」

お婆さんは微笑んで、その桃を拾い上げました。 熟れ具合もちょうどよく、甘そうな香りが鼻をくすぐります。
奇跡のような大きさではないけれど、今日のおやつには十分です。

「お爺さんと半分こにして食べましょうかね」

お婆さんはその小さな桃を、大事に手ぬぐいで包むと、足取り軽く家へと帰りました。
それは、何気ない日常の、ほんの小さな幸せでした。
第2話 祝福
投稿者: クロマル
お婆さんが川から持ち帰った桃をまな板に乗せ、包丁を手に取ったその時、玄関の戸が勢いよく開きました。

「ただいま戻ったぞ、婆さん! 驚くなよ、今日という日は一生忘れられん日になりそうじゃ」

山から戻ったお爺さんの手には、竹の筒が大切そうに抱えられていました。
お婆さんが不思議そうに歩み寄ると、お爺さんは興奮気味に語り始めました。

「山で芝を刈っておったら、一本だけ黄金色に輝く竹があってな。不思議に思って切ってみたら、なんと中からこの子が座って現れたんじゃ!」

お爺さんが竹の筒をそっと開くと、そこには月のように美しい赤ん坊の女の子が眠っていました。

「あらあら、まあまあ! なんて神々しい……」

「これほど美しい子は見たことがない。名前は『かぐや』と名付けよう。この気品…将来は大きな学び舎で生徒会副会長を務めるような、高潔な娘になるかもしれんのう」
「お爺さん、何を言うとるの?」
「さぁのう、わしも分からん。そんなことより目出度い。子供に恵まれなかったわしらに仏様からの祝福じゃわい」

二人がかぐやの誕生を祝っていると、不意にまな板の上の桃が、ひとりでに「パカッ」と音を立てて割れました。

「おや、桃が……?」

お婆さんが見つめる中、中から飛び出してきたのは、親指ほどの大きさしかないちっちゃな男の子でした。

「わっ、びっくりした! 桃の中からこんにちはだ!」

元気いっぱいに跳ねる男の子を見て、お爺さんは笑い声を上げました。
「これは愉快な。一日に二人も授かるとは。この子は小さいから『一寸坊』と名付けよう」

こうして、竹から生まれた「かぐや」と、桃から生まれた「一寸坊」。
お爺さんとお婆さんの家には、一気に二人の宝物が舞い込みました。それは、賑やかで少し不思議な日常の始まりでした。
第3話 旅立ち
あれから十数年の月日が流れました。

竹から生まれたかぐやは、お爺さんの予言通り(?)凛とした美しさに育ち、桃から生まれた一寸坊は、元気いっぱいのまま、背丈は数センチ伸びただけで止まってしまいました。 それでも二人は、お爺さんとお婆さんの深い愛情に包まれて、本当に幸せに暮らしていました。

そんなある日のこと、村に不穏な噂が流れてきました。
「鬼ヶ島の鬼たちが、村の宝や食べ物を奪いに来るらしい」
正義感の強い一寸坊は、それを聞くと黙っていられません。
「僕が鬼を退治してくるよ! みんなが困っているのを放っておけない!」
小さな体で大きな声を出す一寸坊を見て、お婆さんは心配で胸がいっぱいになりました。
「そんな、危ないわ。一寸坊、考え直しなさい」
けれど、一寸坊の決意は固いものでした。 そんな弟の姿を見て、かぐやが静かに立ち上がりました。
「私も行きます。一寸坊を一人で行かせるわけにはいきません」

お婆さんは困ったような顔をしましたが、二人の真っ直ぐな瞳を見て、最後には微笑んで頷きました。
「分かりました。二人とも、これを……」
お婆さんは、心を込めて丸めた黍団子きびだんごを二人の腰にぶら下げてくれました。
「気をつけて行くのですよ。お腹が空いたらこれを食べて」

二人はお爺さんとお婆さんに見送られながら、住み慣れた家を後にしました。
姉のかぐやが一寸坊を肩に乗せ、見慣れた景色が少しずつ遠ざかり、深い山道に入ったときのことです。
道の向こうから、何やらものすごい地響きが聞こえてきました。

土煙の中から現れたのは、赤い腹掛けをして、自分よりも大きなまさかりを軽々と担いだ少年でした。
「おい、お前ら! こんなところで何してるんだ?」
一寸坊とかぐやは、その少年の圧倒的な迫力に、思わず足を止めて顔を見合わせました。
第4話 山の暴れん坊
投稿者: レュー
少年の名は金太郎。
足柄山で熊を相手に相撲をとって育ったという、まさに野生児だった。

大きな担いだまさかり、日に焼けた肌。乱れた黒髪。腰には虎の毛皮を巻いている。

「なあ、姉ちゃん」

金太郎はかぐやの前でぴたりと足を止めた。
じっと見つめる。まるで珍しい花でも見つけたみたいに。

「……何か?」
「すげえ綺麗だな、あんた」

かぐやは無言で一歩下がった。

「俺の嫁に来ねえか」
「は?」

一寸坊がかぐやの肩の上で声を上げた。

「いきなり何言ってんだお前!」
「あ? 誰だお前。虫か?」
「虫じゃねえ! 俺は一寸坊だ!」

金太郎は目を細めて、ようやく一寸坊の存在に気づいたようだった。

「ふーん。で、姉ちゃん。どうだ?」
「お断りします」

かぐやは静かに、けれどきっぱりと言った。

「私たちは鬼退治に向かう途中です。嫁入りの予定はありません」
「鬼退治?そんな細っこい腕で?無理だろ」
「姉ちゃんは俺が守る!」

一寸坊が叫んだ。金太郎は鼻で笑った。

「お前が?この俺に勝てんのか?」
「勝てる。勝負しろ!」

かぐやが止める間もなく、一寸坊は肩から飛び降りた。
腰に差した針の刀を抜く。お婆さんがくれた縫い針だ。

「いいぜ、面白え」

金太郎は鉞を地面に突き刺して、素手で構えた。

「来な、チビ」

一寸坊は地面を蹴った。小さな体が風のように走る。
金太郎の目が追いきれない。

「どこだ?」
「こっちだ!」

声は足元から。
一寸坊は金太郎の足の指の間をすり抜け、ふくらはぎを駆け上がった。

「うお、くすぐってえ!」
「隙あり!」
「わ、ちょ、待て!」

金太郎が慌ててるその隙に一寸坊は背中を走り、首筋に針を突きつけた。

「……参ったか」
「…………参った」

金太郎はがっくりと膝をついた。

「強ぇな、お前」
「当たり前だ。俺は小さいけど、誰にも負けねえ」

かぐやが静かに歩み寄った。

「お見事でした、一寸坊」
「へへ、まあな」

金太郎は座り込んだまま、二人を見上げた。
さっきまでの威勢はどこへやら、しょんぼりとした顔をしている。

「悪かったな、姉ちゃん。いきなり失礼なこと言って」
「分かればよろしいのです」
「俺、誰かに負けたの初めてでよ。熊にも猪にも勝ってきたのに」

一寸坊は金太郎の肩にひょいと飛び乗った。

「お前、強いじゃん。鬼退治、一緒に来るか?」
「え、いいのか?」
「腕っぷしは必要だからな。……姉ちゃんに変なことしなけりゃ、だけど」
「しねえしねえ!約束する!」

かぐやは小さくため息をついたが、その目元は少し笑っていた。

「では、仲直りの印に」

かぐやは腰の袋から黍団子を取り出した。
金太郎の目が輝く。

「うわ、美味そう!」
「母さんの手作りだ。食えよ」

三人は道端の岩に腰かけて、黍団子を分け合った。
金太郎は一口食べて、ぼろぼろと涙をこぼした。

「……美味え。こんな美味いもん、食ったことねえ」
「泣くなよ、大袈裟だな」
「だって、誰かと一緒に飯食うの、初めてなんだ」

一寸坊とかぐやは顔を見合わせた。
山で一人、獣たちと暮らしてきた少年。強いけれど、どこか寂しそうな目。

「……よし、決めた」

一寸坊は立ち上がって言った。

「お前は今日から俺たちの仲間だ。金太郎!」
「おう!よろしくな、一寸坊!姉ちゃんも!」
「かぐや、です」
「かぐや!いい名前だな!」

こうして、三人の旅が始まった。
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