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童話異聞録「桃太郎」

制作者: A5
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 15話で完結 | 文字数制限: 4,000文字

概要

第4話 山の暴れん坊
レュー
2025年12月30日 15:11 | 26
少年の名は金太郎。
足柄山で熊を相手に相撲をとって育ったという、まさに野生児だった。

大きな担いだまさかり、日に焼けた肌。乱れた黒髪。腰には虎の毛皮を巻いている。

「なあ、姉ちゃん」

金太郎はかぐやの前でぴたりと足を止めた。
じっと見つめる。まるで珍しい花でも見つけたみたいに。

「……何か?」
「すげえ綺麗だな、あんた」

かぐやは無言で一歩下がった。

「俺の嫁に来ねえか」
「は?」

一寸坊がかぐやの肩の上で声を上げた。

「いきなり何言ってんだお前!」
「あ? 誰だお前。虫か?」
「虫じゃねえ! 俺は一寸坊だ!」

金太郎は目を細めて、ようやく一寸坊の存在に気づいたようだった。

「ふーん。で、姉ちゃん。どうだ?」
「お断りします」

かぐやは静かに、けれどきっぱりと言った。

「私たちは鬼退治に向かう途中です。嫁入りの予定はありません」
「鬼退治?そんな細っこい腕で?無理だろ」
「姉ちゃんは俺が守る!」

一寸坊が叫んだ。金太郎は鼻で笑った。

「お前が?この俺に勝てんのか?」
「勝てる。勝負しろ!」

かぐやが止める間もなく、一寸坊は肩から飛び降りた。
腰に差した針の刀を抜く。お婆さんがくれた縫い針だ。

「いいぜ、面白え」

金太郎は鉞を地面に突き刺して、素手で構えた。

「来な、チビ」

一寸坊は地面を蹴った。小さな体が風のように走る。
金太郎の目が追いきれない。

「どこだ?」
「こっちだ!」

声は足元から。
一寸坊は金太郎の足の指の間をすり抜け、ふくらはぎを駆け上がった。

「うお、くすぐってえ!」
「隙あり!」
「わ、ちょ、待て!」

金太郎が慌ててるその隙に一寸坊は背中を走り、首筋に針を突きつけた。

「……参ったか」
「…………参った」

金太郎はがっくりと膝をついた。

「強ぇな、お前」
「当たり前だ。俺は小さいけど、誰にも負けねえ」

かぐやが静かに歩み寄った。

「お見事でした、一寸坊」
「へへ、まあな」

金太郎は座り込んだまま、二人を見上げた。
さっきまでの威勢はどこへやら、しょんぼりとした顔をしている。

「悪かったな、姉ちゃん。いきなり失礼なこと言って」
「分かればよろしいのです」
「俺、誰かに負けたの初めてでよ。熊にも猪にも勝ってきたのに」

一寸坊は金太郎の肩にひょいと飛び乗った。

「お前、強いじゃん。鬼退治、一緒に来るか?」
「え、いいのか?」
「腕っぷしは必要だからな。……姉ちゃんに変なことしなけりゃ、だけど」
「しねえしねえ!約束する!」

かぐやは小さくため息をついたが、その目元は少し笑っていた。

「では、仲直りの印に」

かぐやは腰の袋から黍団子を取り出した。
金太郎の目が輝く。

「うわ、美味そう!」
「母さんの手作りだ。食えよ」

三人は道端の岩に腰かけて、黍団子を分け合った。
金太郎は一口食べて、ぼろぼろと涙をこぼした。

「……美味え。こんな美味いもん、食ったことねえ」
「泣くなよ、大袈裟だな」
「だって、誰かと一緒に飯食うの、初めてなんだ」

一寸坊とかぐやは顔を見合わせた。
山で一人、獣たちと暮らしてきた少年。強いけれど、どこか寂しそうな目。

「……よし、決めた」

一寸坊は立ち上がって言った。

「お前は今日から俺たちの仲間だ。金太郎!」
「おう!よろしくな、一寸坊!姉ちゃんも!」
「かぐや、です」
「かぐや!いい名前だな!」

こうして、三人の旅が始まった。
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このパートからの分岐 (1)
恩返し

三人は山道を歩いていた。 木漏れ日。苔むした岩。遠くで鳥の声。 「なあ、鬼ヶ島ってどっちだ?」...

クロマル クロマル
01/08 11:40
全階層の表示(17件)
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