童話異聞録その1「浦島太郎」

制作者: A5 二次創作
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第6話 『竜宮』の秘密
クロマル
2025年11月18日 13:59
翌日も、宴は続いていた。
昨日と同じ音楽、昨日と同じご馳走。

「どうじゃ太郎! 今日もご馳走じゃぞ!」
肩の上で、カメーリアがはしゃいでいる。
「...ああ、そうだな」
太郎の顔はこわばっていた。

(...おかしい。みんな、昨日と同じだ...)
タイやヒラメたちの笑顔が、作り物の面のように見える。
乙姫は、広間の隅で、またあの光る板を操作していた。

「ん? 元気がないのう。もしや二日酔いか?」
「...いや。ちょっと、外の空気吸ってくる」
「ふむ? 迷うなよ?」
「ああ」

太郎はそっと宴会場を抜け出した。
冷たい、無機質な通路。自分の足音だけが響く。
(どこだ...。昨日の夜、乙姫がいたのは...)

あてもなく歩くと、一つの扉に突き当たった。
『No Trespassing』
見たこともない文字が書かれてあった。
だが、入ってはいけないというような雰囲気は感じる。
扉が、かすかに開いていた。

中から、乙姫の声がした。

「...『サンプル:浦島太郎』のデータは? 適合率は?」
「現在解析中。ですが、これまでのサンプルとは明らかに反応が異なります」

太郎は息を殺し、扉の隙間から中を覗いた。

「...!」

そこは、研究室だった。
壁一面のモニター。光る文字の羅列。
そして、部屋の中央に並ぶ、巨大な水槽カプセル
緑色の液体の中で、何かが浮かんでいる。

人...?
いや、違う。
ヒレが生えている。エラがある。
それは、人間と魚の、中間のような...

「地上の汚染は限界です」
白衣を着た乙姫が、冷たい声で言った。
「我々『竜宮』の民が、地上の生命を強制的に『適応』させるしかない」
「彼は、そのための『鍵』になるかもしれない...。あのカメーリアの『海戦用ボディ』に、あれだけ乗って平気だったのですから」

「(...なんだよ、これ...)」

太郎は全身の血が凍るのを感じた。
歓迎? 助かった?
全部、嘘か。

「(ヤバい。ここにいちゃダメだ)」

太郎は物音を立てないよう、ゆっくりと後ずさった。
(カメーリアは...? あいつもグルか?)
(いや、今はどうでもいい)

(逃げろ)

(どこへ?)

(...そうだ。カメーリアがデカくなった、あの場所へ!)

太郎は、宴会場とは逆の方向へ、息を潜めて走り出した。
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