さてその頃、浅草の長屋に、半次郎という蕎麦屋がいた。腕は悪くないが、いささか苦労性の男である。
「ちくしょう、今日もこんなに売れ残っちまった」
そこへ例の知恵の箱が目に入り、半次郎の目の色が変わる。
「そうだ、箱先生に聞いてみりゃいい。この先、江戸で一番儲かる商いってやつをよ」
指を滑らせると、箱先生は即座に答えた。
――今後流行る商いは、みたらし団子。映え良し・持ち歩き可。
――原料は米と醤油。安い仕入れ先は、深川の米問屋。余剰在庫あり。
「映え?持ち歩き? よくわかんねえが、先生が言うなら間違いねえ!」
こうして、翌日には蕎麦屋の暖簾を外し、代わりに「団子」と書いた暖簾を掲げた。米は箱先生に教わった安値の問屋から仕入れ、味付けも箱先生おすすめの黄金比。
「こりゃ当たる! 江戸一番の団子屋だ!」
初日は大当たり。通りすがりの町人が立ち止まり、次々と買っていく。半次郎は、ほくほくと銭を数えた。
「やっぱりな。これからは人間の勘より箱の勘だ」
ところが、そのわずか三日後。半次郎は目を疑った。向かいの魚屋が団子屋。隣の下駄屋も団子屋。角の薬屋まで団子屋。通り一面、団子、団子、団子。醤油の香りで半次郎はむせる。
「なんでぇこりゃ!」
通りかかった男が言う。
「へえ、箱先生がよ、“これから流行る商いはみたらし団子”って」
別の女房も「仕入れ先も同じとこだってさ。みんなで押しかけたら、もう米がねえって」と。
結果、客は分かれ、団子は余り、値段は下がる。そのくせ蕎麦屋は減った。魚屋も減った。薬も買えぬ。江戸の町は団子だらけ。腹は満たされるが、暮らしは痩せ細る一方だ。
半次郎は売れ残りの団子を前に、がっくりと肩を落とした。
「……箱先生よ。あんた、みんなに同じ答えを出しちまったのかい」
「ちくしょう、今日もこんなに売れ残っちまった」
そこへ例の知恵の箱が目に入り、半次郎の目の色が変わる。
「そうだ、箱先生に聞いてみりゃいい。この先、江戸で一番儲かる商いってやつをよ」
指を滑らせると、箱先生は即座に答えた。
――今後流行る商いは、みたらし団子。映え良し・持ち歩き可。
――原料は米と醤油。安い仕入れ先は、深川の米問屋。余剰在庫あり。
「映え?持ち歩き? よくわかんねえが、先生が言うなら間違いねえ!」
こうして、翌日には蕎麦屋の暖簾を外し、代わりに「団子」と書いた暖簾を掲げた。米は箱先生に教わった安値の問屋から仕入れ、味付けも箱先生おすすめの黄金比。
「こりゃ当たる! 江戸一番の団子屋だ!」
初日は大当たり。通りすがりの町人が立ち止まり、次々と買っていく。半次郎は、ほくほくと銭を数えた。
「やっぱりな。これからは人間の勘より箱の勘だ」
ところが、そのわずか三日後。半次郎は目を疑った。向かいの魚屋が団子屋。隣の下駄屋も団子屋。角の薬屋まで団子屋。通り一面、団子、団子、団子。醤油の香りで半次郎はむせる。
「なんでぇこりゃ!」
通りかかった男が言う。
「へえ、箱先生がよ、“これから流行る商いはみたらし団子”って」
別の女房も「仕入れ先も同じとこだってさ。みんなで押しかけたら、もう米がねえって」と。
結果、客は分かれ、団子は余り、値段は下がる。そのくせ蕎麦屋は減った。魚屋も減った。薬も買えぬ。江戸の町は団子だらけ。腹は満たされるが、暮らしは痩せ細る一方だ。
半次郎は売れ残りの団子を前に、がっくりと肩を落とした。
「……箱先生よ。あんた、みんなに同じ答えを出しちまったのかい」
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