その日から、江戸の町は様変わりした。
朝、日が昇っても誰も「おはよう」と声をかけぬ。
隣の者に挨拶する前に、まず箱に問うのである。
「今日の挨拶は何と言えばよいか」
「箱先生いわく、『天気が良いですね』が最適」
魚屋の女房が魚を選ぶにも箱を見る。
「この鰹、新鮮かね?」
「待ちな。箱先生に聞いてみるから…ええと、『今朝の勝鬨橋の鰹、鮮度』っと」
「おいおい、目の前にあるんだから見りゃわかるだろう!」
魚屋の主人が呆れても、女房は箱から目を離さない。
***
八五郎もすっかり箱の虜である。朝起きてから寝るまで、箱と睨めっこ。
御隠居が心配して声をかけた。
「八、最近おまえ、箱ばかり見ておらぬか。たまには人と話をせんと」
「へっ? 何か言いましたか、御隠居」
八五郎は箱を撫でながら生返事。
「…今、わしが何を言ったか覚えておるか?」
「ええと…箱先生、『御隠居が今言ったこと』…あ、出ましたぜ。『健康を気遣う言葉』だそうで」
「違う!わしは箱のことを…ああ、もうよい」
御隠居は溜息をついた。
朝、日が昇っても誰も「おはよう」と声をかけぬ。
隣の者に挨拶する前に、まず箱に問うのである。
「今日の挨拶は何と言えばよいか」
「箱先生いわく、『天気が良いですね』が最適」
魚屋の女房が魚を選ぶにも箱を見る。
「この鰹、新鮮かね?」
「待ちな。箱先生に聞いてみるから…ええと、『今朝の勝鬨橋の鰹、鮮度』っと」
「おいおい、目の前にあるんだから見りゃわかるだろう!」
魚屋の主人が呆れても、女房は箱から目を離さない。
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八五郎もすっかり箱の虜である。朝起きてから寝るまで、箱と睨めっこ。
御隠居が心配して声をかけた。
「八、最近おまえ、箱ばかり見ておらぬか。たまには人と話をせんと」
「へっ? 何か言いましたか、御隠居」
八五郎は箱を撫でながら生返事。
「…今、わしが何を言ったか覚えておるか?」
「ええと…箱先生、『御隠居が今言ったこと』…あ、出ましたぜ。『健康を気遣う言葉』だそうで」
「違う!わしは箱のことを…ああ、もうよい」
御隠居は溜息をついた。
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