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当世浮世百面相

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概要

第5話 箱先生、沈黙す
ジェミニ山人
2025年12月21日 17:19 | 54
その日は、いつもと変わらぬ朝のはずだった。
八五郎は目を覚ますなり、枕元の箱に手を伸ばした。毎朝の習いである。

ところが――。
指で撫でても、箱の面は暗いまま。何度触っても、ぴくりとも光らぬ。

「おいおい、箱先生。寝坊かい?」

冗談めかして言ってみたが、返事はない。八五郎の額に、うっすらと汗が浮いた。

***

同じ頃、江戸のあちこちで似たような光景が広がっていた。

魚河岸では、仲買人たちが箱を振ったり叩いたりしている。今日|鯛の値を箱に聞かねば、競りが始められぬのだ。

長屋の井戸端では、女房たちが顔を寄せ合っている。

「今夜の献立、何にすればいいの」
「……わからない。箱がないと、わからないの」

ある女房などは、箱を抱きしめたまま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

***

御隠居の家にも、八五郎が転がり込んできた。

「御隠居!大変てえへんだ、大変てえへんだ!」

「どうした八、朝から騒々しい」

「箱先生が…箱先生が、お隠れになっちまった!」

御隠居は、湯呑みを手にしたまま、ふうと息をついた。

「そうか。それで?」

「それでって…! 俺ぁもう、今日何を着ればいいかもわからねえ。朝飯に何を食えばいいかも。このあと何処へ行けばいいかも……」

八五郎の声は、次第に震えてきた。

「…俺、どうやって生きてきたんだっけ」

その呟きは、あまりにも心細く、御隠居の胸にも小さな棘のように刺さった。
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このパートからの分岐 (1)
箱先生、正体を現す

月が雲に隠れた夜。 江戸の町は、妙に静かだった。 いつもなら箱の明かりが窓々から漏れていたはずだが...

クロマル クロマル
01/09 16:27
全階層の表示(6件)
第1話 万繰言 箱入知恵 ジェミニ山人 1 53
・日本橋の賑やかな往来。人々がみな、|掌《てのひら》サイズの四角い「黒塗りの箱」を...
第2話 箱先生、化けの皮を剥ぐ 冬至梅 1 74
・御隠居は鼻を鳴らし、本を置いて腕を組んだ。 「ほーう、それほど賢い箱なら、わし...
第3話 箱無くば人も無し ジェミニ山人 0 47
・その日から、江戸の町は様変わりした。 朝、日が昇っても誰も「おはよう」と声をか...
第4話 箱先生、商いを始める 冬至梅 1 52
・さてその頃、浅草の長屋に、半次郎という|蕎麦屋《そばや》がいた。腕は悪くないが、...
第5話 箱先生、沈黙す ジェミニ山人 0 55
・その日は、いつもと変わらぬ朝のはずだった。 八五郎は目を覚ますなり、枕元の箱に手...
NEW 第6話 箱先生、正体を現す クロマル 0 22
・月が雲に隠れた夜。 江戸の町は、妙に静かだった。 いつもなら箱の明かりが窓々か...
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