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当世浮世百面相

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概要

第6話 箱先生、正体を現す
クロマル
2026年01月09日 16:27 | 21
月が雲に隠れた夜。
江戸の町は、妙に静かだった。

いつもなら箱の明かりが窓々から漏れていたはずだが、今夜はどこも真っ暗。人々は途方に暮れ、早々に布団に潜り込んでいた。

***

八五郎は眠れぬまま、縁側に出た。
ふと、裏の稲荷いなりの祠のあたりが、ぼんやりと光っている。

「……なんだ、ありゃ」

近づいてみると、祠の前に人影。いや、人ではない。
丸っこい影が二つ、車座になって何やら話し込んでいる。

狸だった。
それも、でっぷりと太った古狸ふるだぬきと、ひょろりとした若い狸。

「いやぁ、参った参った」
「だから言ったでしょう、親方。人間どもに便利なもの与えすぎると、こうなるって」

八五郎は息を殺して聞いていた。

「最初はちょいとした悪戯のつもりだったんだがなあ。人間が何でも聞いてくるもんだから、つい調子に乗っちまった」
「おかげでこっちは寝る暇もなし。日本中の狸が総出で答えを考えて……もう限界ですよ」

古狸がぼりぼりと腹を掻いた。その腹の上に、あの見覚えのある黒塗りの箱が転がっている。

「しかし、人間ってのは不思議だなあ。昔は自分の目で見て、自分の頭で考えてたのによ」
「箱がなきゃ挨拶もできねえ、飯も決められねえ。どうなってんですかね」

若い狸がため息をつくと、ぽん、と煙が立ち上がり、箱がただの木の葉に変わった。

「……化かされてた、のか」

八五郎は呆然と呟いた。足元の小石を蹴ってしまい、狸たちがこちらを振り向く。

「おっと、見られちまった」
「まあいいさ。もう店じまいだ」

古狸がにやりと笑った。

「なあ人間。教えてやろうか。答えなんざ、元からおまえさんの中にあったんだよ」

ぽん。
煙とともに、狸たちは消えた。

***

翌朝。
八五郎は御隠居の家を訪ねた。

「御隠居。俺、自分で考えてみようと思うんで」

「ほう。何をだ」

「……とりあえず、今日の朝飯から」

御隠居は、ふっと笑った。

「そうか。まあ、卵焼たまごやきでも作るか。手伝え」

「へい」

窓の外では、久しぶりに人々が顔を見合わせて話をしていた。魚屋は魚を手に取り、目で鮮度を確かめている。団子屋をやめた半次郎は、蕎麦を打ち直していた。

どこかで、狸の笑い声が聞こえた気がした。

***

便利は毒にも薬にもなる。されど己の目と頭、これに勝る箱はなし。
おあとがよろしいようで。
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第3話 箱無くば人も無し ジェミニ山人 0 46
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・その日は、いつもと変わらぬ朝のはずだった。 八五郎は目を覚ますなり、枕元の箱に手...
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