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雨のち、きみ

制作者: 迦楼羅
小説設定: | 連続投稿: 不可 | 投稿権限: 全員

概要

第3話 二つの肉まん
さんぽ
2025年12月27日 12:48 | 31
それから三日後。

私は、あの日と同じコンビニの前に立っていた。
理由は単純で、帰り道だから。
それ以上でも、それ以下でもない……はずだった。

雨は降っていない。
なのに、なんとなく足が止まる。

(……いないよね)

自分でそう思って、少し可笑しくなる。
名前を知っただけの、たった一度会った人。
連絡先も聞いていないし、聞かれてもいない。

なのに。

自動ドアが開く音がして、条件反射みたいに顔を上げてしまった。

「……あ」

聞き覚えのある声。
柊さんが、そこにいた。

今日は濡れていない。
黒い髪もきちんと整っていて、ほとんど時間はたっていないのに、あの日より少しだけ大人に見えた。

「雨宮さん」

ちゃんと、名前を呼ばれた。
それだけで、胸の奥が少しだけ騒がしくなる。

「また会えましたね」

「……本当に」

二人して、なんだか気まずく笑う。

「今日は、肉まんありますよ」

彼がショーケースを指差す。
中には、ちゃんと二個並んでいた。

「……一個ずつ、ですね」

「もちろん」

レジを済ませて、またイートイン。
今度は半分こじゃない。
なのに、距離は前より近い気がした。

「彼女の件は?」

私が聞くと、柊さんは少し考えてから答えた。

「まだ、ちょっとだけ、しんどいです」

「正直ですね」

「雨宮さんの前だと、格好つける理由がなくて」

それはずるい言い方だと思う。

「……私は、先輩にまた怒られました」

「うわ」

「でも今回は、ちゃんと言い返しました」

「それは進歩じゃん」

「ですよね」

肉まんを一口かじる。
湯気が、冬の空気に溶けていく。

沈黙が落ちる。
でも、嫌じゃない沈黙。

「ねえ、雨宮さん」

「はい」

「……また最悪な日があったら、ここ来ません?」

胸が、どくんと鳴った。

「偶然会えたら、また話す。会えなかったら、それまで」

「……ずるいですね、それ」

「振られた男なりの、慎重さです」

私は少し考えてから、うなずいた。

「じゃあ、私も来ます」

「最悪な日?」

「……ちょっとだけ、良くなりたい日に」

柊さんが、静かに笑った。

外に出ると、空は澄んでいた。
雨上がりの匂いがする。

名前を知って、声を知って、
それでもまだ、何者でもない二人。

でもたぶん、これは始まりだ。

肉まん一個分くらいの、
あたたかくて、ささやかな。
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第1話 雨の日のコンビニで 迦楼羅 0 65
・その日、私は最悪の気分だった。 朝から降り続く雨。傘を持ってこなかったせいで、...
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