雨のち、きみ
制作者:
迦楼羅
小説設定:
|
連続投稿: 不可
|
投稿権限:
全員
概要
最悪な一日の終わり、雨に濡れてたどり着いたコンビニで、主人公の「私」は見知らぬ男性と肉まんの最後の一個を取り合うことに。「半分こしませんか」という彼の提案から始まる、小さな偶然の物語。
それから三日後。
私は、あの日と同じコンビニの前に立っていた。
理由は単純で、帰り道だから。
それ以上でも、それ以下でもない……はずだった。
雨は降っていない。
なのに、なんとなく足が止まる。
(……いないよね)
自分でそう思って、少し可笑しくなる。
名前を知っただけの、たった一度会った人。
連絡先も聞いていないし、聞かれてもいない。
なのに。
自動ドアが開く音がして、条件反射みたいに顔を上げてしまった。
「……あ」
聞き覚えのある声。
柊さんが、そこにいた。
今日は濡れていない。
黒い髪もきちんと整っていて、ほとんど時間はたっていないのに、あの日より少しだけ大人に見えた。
「雨宮さん」
ちゃんと、名前を呼ばれた。
それだけで、胸の奥が少しだけ騒がしくなる。
「また会えましたね」
「……本当に」
二人して、なんだか気まずく笑う。
「今日は、肉まんありますよ」
彼がショーケースを指差す。
中には、ちゃんと二個並んでいた。
「……一個ずつ、ですね」
「もちろん」
レジを済ませて、またイートイン。
今度は半分こじゃない。
なのに、距離は前より近い気がした。
「彼女の件は?」
私が聞くと、柊さんは少し考えてから答えた。
「まだ、ちょっとだけ、しんどいです」
「正直ですね」
「雨宮さんの前だと、格好つける理由がなくて」
それはずるい言い方だと思う。
「……私は、先輩にまた怒られました」
「うわ」
「でも今回は、ちゃんと言い返しました」
「それは進歩じゃん」
「ですよね」
肉まんを一口かじる。
湯気が、冬の空気に溶けていく。
沈黙が落ちる。
でも、嫌じゃない沈黙。
「ねえ、雨宮さん」
「はい」
「……また最悪な日があったら、ここ来ません?」
胸が、どくんと鳴った。
「偶然会えたら、また話す。会えなかったら、それまで」
「……ずるいですね、それ」
「振られた男なりの、慎重さです」
私は少し考えてから、うなずいた。
「じゃあ、私も来ます」
「最悪な日?」
「……ちょっとだけ、良くなりたい日に」
柊さんが、静かに笑った。
外に出ると、空は澄んでいた。
雨上がりの匂いがする。
名前を知って、声を知って、
それでもまだ、何者でもない二人。
でもたぶん、これは始まりだ。
肉まん一個分くらいの、
あたたかくて、ささやかな。
私は、あの日と同じコンビニの前に立っていた。
理由は単純で、帰り道だから。
それ以上でも、それ以下でもない……はずだった。
雨は降っていない。
なのに、なんとなく足が止まる。
(……いないよね)
自分でそう思って、少し可笑しくなる。
名前を知っただけの、たった一度会った人。
連絡先も聞いていないし、聞かれてもいない。
なのに。
自動ドアが開く音がして、条件反射みたいに顔を上げてしまった。
「……あ」
聞き覚えのある声。
柊さんが、そこにいた。
今日は濡れていない。
黒い髪もきちんと整っていて、ほとんど時間はたっていないのに、あの日より少しだけ大人に見えた。
「雨宮さん」
ちゃんと、名前を呼ばれた。
それだけで、胸の奥が少しだけ騒がしくなる。
「また会えましたね」
「……本当に」
二人して、なんだか気まずく笑う。
「今日は、肉まんありますよ」
彼がショーケースを指差す。
中には、ちゃんと二個並んでいた。
「……一個ずつ、ですね」
「もちろん」
レジを済ませて、またイートイン。
今度は半分こじゃない。
なのに、距離は前より近い気がした。
「彼女の件は?」
私が聞くと、柊さんは少し考えてから答えた。
「まだ、ちょっとだけ、しんどいです」
「正直ですね」
「雨宮さんの前だと、格好つける理由がなくて」
それはずるい言い方だと思う。
「……私は、先輩にまた怒られました」
「うわ」
「でも今回は、ちゃんと言い返しました」
「それは進歩じゃん」
「ですよね」
肉まんを一口かじる。
湯気が、冬の空気に溶けていく。
沈黙が落ちる。
でも、嫌じゃない沈黙。
「ねえ、雨宮さん」
「はい」
「……また最悪な日があったら、ここ来ません?」
胸が、どくんと鳴った。
「偶然会えたら、また話す。会えなかったら、それまで」
「……ずるいですね、それ」
「振られた男なりの、慎重さです」
私は少し考えてから、うなずいた。
「じゃあ、私も来ます」
「最悪な日?」
「……ちょっとだけ、良くなりたい日に」
柊さんが、静かに笑った。
外に出ると、空は澄んでいた。
雨上がりの匂いがする。
名前を知って、声を知って、
それでもまだ、何者でもない二人。
でもたぶん、これは始まりだ。
肉まん一個分くらいの、
あたたかくて、ささやかな。
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