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奇天烈文房店。

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概要

第2話 雨宿りと、懐かしい匂い
蒼月(そうげつ)
2025年12月31日 09:54 | 35
「あ……、すみません。あまりに酷い降りだったので」

僕は濡れた傘をすぼめ、申し訳なさそうに頭を下げた。
店内は、外の騒がしい雨音が嘘のように静かだった。古い紙の匂いと、微かに薫香くんこうのような、どこか懐かしい香りが鼻をくすぐる。

店の奥、小さなカウンターに座っていた老婆は、シワの刻まれた目元を和ませて微笑んだ。
「いいんですよ。ここはそういう方のための場所でもありますから」

老婆は、茶托ちゃたくに乗った湯呑みを差し出した。立ち上る湯気が、僕の冷え切った指先をじんわりと温めてくれる。
「ありがとうございます。あの、ここって……」
こうとして、言葉が詰まった。小学生の頃、確かにここには文房具屋があった。でも、もう何年も前に取り壊されて、今は空き地になっていたはずだ。

店内の棚に目を向けると、琥珀こはく色の光に照らされた文房具たちが、静かに息を潜めている。見たこともない装丁のノートや、不思議な模様の入ったガラスペン。
床板が歩くたびに、小さくきしんだ。それはまるで、忘れていた記憶を呼び起こす合図のようだった。

「不思議そうな顔をしていますね。何か、お探しですか?」
老婆の問いかけに、僕は言葉を失った。自分でも何を求めてこの路地に迷い込んだのか、分からなくなっていたからだ。
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このパートからの分岐 (1)
老婆の言葉

「……正直に言うと、自分でも分からないんです」 そう答えると、老婆は少しだけ嬉しそうに、うんうんと頷...

さんぽ さんぽ
01/06 12:54
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第1話 奇天烈文房店。 澪月かんな。 0 35
・雨の日にだけ、その路地は少し長くなる。  鬱屈とした梅雨の合間にまるで天からの贈...
第2話 雨宿りと、懐かしい匂い 蒼月(そうげつ) 0 36
・「あ……、すみません。あまりに酷い降りだったので」 僕は濡れた傘をすぼめ、申し訳...
NEW 第3話 老婆の言葉 さんぽ 0 17
・「……正直に言うと、自分でも分からないんです」 そう答えると、老婆は少しだけ嬉し...
第2話 書かれているからですよ さんぽ 0 36
・声に導かれるように、私は一歩、二歩と店内へ足を踏み入れた。  扉は閉めたはずなの...
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