奇天烈文房店。
制作者:
澪月かんな。
小説設定:
|
連続投稿: 不可
|
投稿権限:
全員
概要
雨の日だけ現れるという噂の路地で、主人公は閉店したはずの店を実際に目撃する。
偶然では片づけられない再現性に気づいた主人公は、現象を記録し、検証を始める。
しかし調査を進めるほど、店で起きた出来事が現実にも影響を及ぼし、周囲の記憶や配置が微妙に書き換えられていく。
この現象が都市伝説なのか、ある種の法則なのかを突き止めようとする中で、主人公自身もまた「観測対象」に組み込まれていく。
偶然では片づけられない再現性に気づいた主人公は、現象を記録し、検証を始める。
しかし調査を進めるほど、店で起きた出来事が現実にも影響を及ぼし、周囲の記憶や配置が微妙に書き換えられていく。
この現象が都市伝説なのか、ある種の法則なのかを突き止めようとする中で、主人公自身もまた「観測対象」に組み込まれていく。
「……正直に言うと、自分でも分からないんです」
そう答えると、老婆は少しだけ嬉しそうに、うんうんと頷いた。
「それでいいんですよ。ここに来る方のほとんどが、そうおっしゃいますから」
老婆は立ち上がり、僕の横をゆっくりと通り過ぎた。着物の裾が擦れる音が、雨音よりもはっきりと耳に残る。
彼女は棚の奥から、一冊のノートを取り出した。表紙は深い紺色で、題名も、罫線もない。
「これは……売り物ですか?」
「ええ。もっとも、買うかどうかはあなた次第です」
老婆はノートを開き、僕の方へ向けた。
白紙――のはずだった。
だが、目を凝らすと、紙の奥に、消えかけの文字の跡が見える。
「……何か、書いてあったんですか?」
「書こうとして、書かなかった言葉たちです」
老婆は静かに言った。
「日記にしようとして閉じた一日。手紙にしようとして破いた文章。誰にも見せないつもりで、心の中に押し戻した考え」
胸の奥が、ひくりと痛んだ。
思い当たる節がいくつもある。
「この店の品はね、現実で居場所を失ったものばかりなんですよ」
老婆はノートを棚に戻し、別の引き出しを開けた。
「役目を終えなかった万年筆。使われる前に捨てられた消しゴム。そして――書かれなかった言葉」
僕は、無意識のうちに、自分の胸元に手を当てていた。
雨に濡れたシャツの下で、心臓が早鐘を打っている。
「……ここは、いつからあるんですか」
「必要とされた時から、です」
老婆はあいまいな答えを返した。
その視線が僕の背後へと向けられる。
振り返ると、入口のガラス戸の向こうで、雨が弱まり始めていた。
さっきまで叩きつけるようだった雨粒が、いつの間にか細く、静かになっている。
「雨が止めば、この店は閉まります」
老婆は、少しだけ名残惜しそうに言った。
「ですから、もし何か書き残したいなら、今のうちですよ」
「……書く、ですか」
カウンターの上には、いつの間にか一本の万年筆が置かれていた。
黒い軸に、細い銀の装飾。手に取ると、驚くほど軽い。
「上手である必要はありません」
老婆は微笑んだ。
「あなたの言葉であれば、それでいい」
僕は、白紙のノートを前に、しばらく動けずにいた。
書きたいことは山ほどあるはずなのに、いざ向き合うと、言葉が喉の奥で絡まる。
それでも、ペン先を紙に近づけた、その瞬間。
そう答えると、老婆は少しだけ嬉しそうに、うんうんと頷いた。
「それでいいんですよ。ここに来る方のほとんどが、そうおっしゃいますから」
老婆は立ち上がり、僕の横をゆっくりと通り過ぎた。着物の裾が擦れる音が、雨音よりもはっきりと耳に残る。
彼女は棚の奥から、一冊のノートを取り出した。表紙は深い紺色で、題名も、罫線もない。
「これは……売り物ですか?」
「ええ。もっとも、買うかどうかはあなた次第です」
老婆はノートを開き、僕の方へ向けた。
白紙――のはずだった。
だが、目を凝らすと、紙の奥に、消えかけの文字の跡が見える。
「……何か、書いてあったんですか?」
「書こうとして、書かなかった言葉たちです」
老婆は静かに言った。
「日記にしようとして閉じた一日。手紙にしようとして破いた文章。誰にも見せないつもりで、心の中に押し戻した考え」
胸の奥が、ひくりと痛んだ。
思い当たる節がいくつもある。
「この店の品はね、現実で居場所を失ったものばかりなんですよ」
老婆はノートを棚に戻し、別の引き出しを開けた。
「役目を終えなかった万年筆。使われる前に捨てられた消しゴム。そして――書かれなかった言葉」
僕は、無意識のうちに、自分の胸元に手を当てていた。
雨に濡れたシャツの下で、心臓が早鐘を打っている。
「……ここは、いつからあるんですか」
「必要とされた時から、です」
老婆はあいまいな答えを返した。
その視線が僕の背後へと向けられる。
振り返ると、入口のガラス戸の向こうで、雨が弱まり始めていた。
さっきまで叩きつけるようだった雨粒が、いつの間にか細く、静かになっている。
「雨が止めば、この店は閉まります」
老婆は、少しだけ名残惜しそうに言った。
「ですから、もし何か書き残したいなら、今のうちですよ」
「……書く、ですか」
カウンターの上には、いつの間にか一本の万年筆が置かれていた。
黒い軸に、細い銀の装飾。手に取ると、驚くほど軽い。
「上手である必要はありません」
老婆は微笑んだ。
「あなたの言葉であれば、それでいい」
僕は、白紙のノートを前に、しばらく動けずにいた。
書きたいことは山ほどあるはずなのに、いざ向き合うと、言葉が喉の奥で絡まる。
それでも、ペン先を紙に近づけた、その瞬間。
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