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透明な記憶

制作者: ケンヂ
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第4話 エラーコード
ケンヂ
2025年12月22日 13:19 | 36
視界がジャックされたような感覚だった。

再生された映像は、あの日と同じ代々木公園の風景だ。けれど、カメラのアングルが決定的に違っていた。
低い位置から、やや見上げるような視点。そして目の前には、俺の妻が立っている。

俺の記憶の中の彼女は、俺に向かって手を振っていた。
だが、この映像の中の彼女は違う。
困ったような、それでいてどこか慈愛に満ちた複雑な表情で、レンズの向こう側にいる「誰か」を見下ろしていた。

「ごめんね」

妻の唇が動く。音声データは破損しているのか、ノイズ混じりだが、その言葉だけははっきりと読めた。

「もう、会えないの。私、彼を愛してるから」

心臓が早鐘を打つ。
これは、あの男の視点だ。
ID「8297A4B1」。あの桜の木の下で泣いていた男の記憶データが、何らかのバグで俺のクラウドと同期してしまったのだ。

妻は、あの男を知っていた。
そして、別れを告げていた?
俺と結婚してから二年も経っていたあの春の日に?

ブツン、と唐突に映像が途切れる。
暗転した視界に、無機質なシステムメッセージだけが明滅していた。

『同期エラー:対象のメモリ領域にアクセスできません』
『ソース元の座標データを取得しました』

俺は震える手でその座標をメモに書き写す。
感情的になりそうな自分を、理性が必死に押しとどめていた。これはただの感傷的なドラマじゃない。システム的な齟齬が生んだ、解くべきパズルだ。

座標が指し示していたのは、ここから電車で一時間ほどの場所にある、古い療養型病院だった。

俺はデバイスを乱暴に外すと、上着を掴んで部屋を飛び出した。
答え合わせをしに行かなければならない。
俺の知らない妻と、あの男の間にあった「記憶」の正体を突き止めるために。
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このパートからの分岐 (1)
開放された病院

療養型病院は、夕方の光に沈んでいた。 最寄り駅から歩くにつれ、街の色が少しずつ薄れていく。 コンビ...

さんぽ さんぽ
01/10 13:01
全階層の表示(5件)
第1話 記憶の引き出し ケンヂ 0 56
・妻が死んでから、もう二年が経つ。 俺は今日も、仕事から帰ると真っ先にリビングの...
第2話 誰かの記憶 さんぽ 0 49
・翌日、仕事中にもあの男のことが頭から離れなかった。  桜の木の下に立っていた知...
第3話 通知 さんぽ 0 45
・翌週、俺は会社を休んだ。理由は体調不良と伝えた。本当は違う。  ただ、どう言葉に...
第4話 エラーコード ケンヂ 0 37
・視界がジャックされたような感覚だった。 再生された映像は、あの日と同じ代々木公...
NEW 第5話 開放された病院 さんぽ 0 15
・療養型病院は、夕方の光に沈んでいた。 最寄り駅から歩くにつれ、街の色が少しずつ...
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