視界がジャックされたような感覚だった。
再生された映像は、あの日と同じ代々木公園の風景だ。けれど、カメラのアングルが決定的に違っていた。
低い位置から、やや見上げるような視点。そして目の前には、俺の妻が立っている。
俺の記憶の中の彼女は、俺に向かって手を振っていた。
だが、この映像の中の彼女は違う。
困ったような、それでいてどこか慈愛に満ちた複雑な表情で、レンズの向こう側にいる「誰か」を見下ろしていた。
「ごめんね」
妻の唇が動く。音声データは破損しているのか、ノイズ混じりだが、その言葉だけははっきりと読めた。
「もう、会えないの。私、彼を愛してるから」
心臓が早鐘を打つ。
これは、あの男の視点だ。
ID「8297A4B1」。あの桜の木の下で泣いていた男の記憶データが、何らかのバグで俺のクラウドと同期してしまったのだ。
妻は、あの男を知っていた。
そして、別れを告げていた?
俺と結婚してから二年も経っていたあの春の日に?
ブツン、と唐突に映像が途切れる。
暗転した視界に、無機質なシステムメッセージだけが明滅していた。
『同期エラー:対象のメモリ領域にアクセスできません』
『ソース元の座標データを取得しました』
俺は震える手でその座標をメモに書き写す。
感情的になりそうな自分を、理性が必死に押しとどめていた。これはただの感傷的なドラマじゃない。システム的な齟齬が生んだ、解くべきパズルだ。
座標が指し示していたのは、ここから電車で一時間ほどの場所にある、古い療養型病院だった。
俺はデバイスを乱暴に外すと、上着を掴んで部屋を飛び出した。
答え合わせをしに行かなければならない。
俺の知らない妻と、あの男の間にあった「記憶」の正体を突き止めるために。
再生された映像は、あの日と同じ代々木公園の風景だ。けれど、カメラのアングルが決定的に違っていた。
低い位置から、やや見上げるような視点。そして目の前には、俺の妻が立っている。
俺の記憶の中の彼女は、俺に向かって手を振っていた。
だが、この映像の中の彼女は違う。
困ったような、それでいてどこか慈愛に満ちた複雑な表情で、レンズの向こう側にいる「誰か」を見下ろしていた。
「ごめんね」
妻の唇が動く。音声データは破損しているのか、ノイズ混じりだが、その言葉だけははっきりと読めた。
「もう、会えないの。私、彼を愛してるから」
心臓が早鐘を打つ。
これは、あの男の視点だ。
ID「8297A4B1」。あの桜の木の下で泣いていた男の記憶データが、何らかのバグで俺のクラウドと同期してしまったのだ。
妻は、あの男を知っていた。
そして、別れを告げていた?
俺と結婚してから二年も経っていたあの春の日に?
ブツン、と唐突に映像が途切れる。
暗転した視界に、無機質なシステムメッセージだけが明滅していた。
『同期エラー:対象のメモリ領域にアクセスできません』
『ソース元の座標データを取得しました』
俺は震える手でその座標をメモに書き写す。
感情的になりそうな自分を、理性が必死に押しとどめていた。これはただの感傷的なドラマじゃない。システム的な齟齬が生んだ、解くべきパズルだ。
座標が指し示していたのは、ここから電車で一時間ほどの場所にある、古い療養型病院だった。
俺はデバイスを乱暴に外すと、上着を掴んで部屋を飛び出した。
答え合わせをしに行かなければならない。
俺の知らない妻と、あの男の間にあった「記憶」の正体を突き止めるために。
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