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透明な記憶

制作者: ケンヂ
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第2話 誰かの記憶
さんぽ
2025年12月17日 11:42 | 48
翌日、仕事中にもあの男のことが頭から離れなかった。

 桜の木の下に立っていた知らない男。何度も再生してきたはずの記憶の中に、突然現れた異物。

 気のせいじゃない。どうしてもそう思えなかった。

 定時で帰宅するとソファに身を沈め、こめかみにデバイスを押し当てた。視界に淡い光が走り、代々木公園での記憶が展開される。

――やはり、あの男がいる。

 今度は、彼がどんな表情をしているか、じっくり観察する。細身の身体、無地のシャツ、目元にかかる前髪。年齢は俺より少し下か。

 そして……彼は泣いていた。声こそ聞こえないが、確かに涙が頬を伝っていた。

 どうしてだ? なぜ、俺の記憶の中で、見知らぬ男が妻を見つめて泣いている?

「記憶精度、100%。改変ログなし」

 再生を一時停止して、脳内ナビに問いかける。すると、冷たい女性の声が返ってきた。
 つまり、この映像は間違いなく俺自身の記憶。誰かが後から書き換えたわけではない。

 けれど、それなら――この男は、最初から俺の記憶の中にいたということになる。

 気づかなかったのか? いや、そんなはずはない。こんなに目立つ位置にいた人間を見落とすわけがない。

 ……本当に、これは「俺の」記憶なのか?

 不意に、奇妙な思考がよぎる。
 もしかしたら、これは誰かの記憶と混線しているのではないか?

 最近、記憶再生デバイスの不具合が話題になっていた。
 クラウドに保存された無数の記憶が、まれに別人のデータと混ざることがある。
 そんなニュースを見た記憶が、うっすらと残っている。

「記憶ソース確認」

 そう指示を出すと、目の前に小さなウィンドウが開いた。
 そこには、ありえない文字列が表示されていた。

【Memory Source: USER_ID_8297A4B1】

 俺じゃない。これは、別の誰かの記憶だ。

「……どういうことだ」

 思わず呟く。

 妻の記憶。あの日、俺が彼女と笑い合った、最後の春の記憶。それが他人のものと混ざっていた? なぜ? 誰と?

 もう一度、あの男を見つめる。
 泣いている彼の目は、明らかにそこにいる「妻」を見ていた。
 切なさと後悔と愛しさが入り混じった、どうしようもない感情が痛いほど伝わってくる。

 もしかして……この男は妻の過去を知る誰かか? あるいは、彼女に想いを寄せていた、別の「誰か」なのか。

 記憶再生を停止し、俺はソファから立ち上がる。

 答えを知るには、あの「USER_ID_8297A4B1」が誰なのかを突き止めるしかない。
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このパートからの分岐 (1)
通知

翌週、俺は会社を休んだ。理由は体調不良と伝えた。本当は違う。  ただ、どう言葉にしたらいいか分からな...

さんぽ さんぽ
12/19 10:39
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第1話 記憶の引き出し ケンヂ 0 56
・妻が死んでから、もう二年が経つ。 俺は今日も、仕事から帰ると真っ先にリビングの...
第2話 誰かの記憶 さんぽ 0 49
・翌日、仕事中にもあの男のことが頭から離れなかった。  桜の木の下に立っていた知...
第3話 通知 さんぽ 0 45
・翌週、俺は会社を休んだ。理由は体調不良と伝えた。本当は違う。  ただ、どう言葉に...
第4話 エラーコード ケンヂ 0 36
・視界がジャックされたような感覚だった。 再生された映像は、あの日と同じ代々木公...
NEW 第5話 開放された病院 さんぽ 0 15
・療養型病院は、夕方の光に沈んでいた。 最寄り駅から歩くにつれ、街の色が少しずつ...
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