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透明な記憶

制作者: ケンヂ
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第5話 開放された病院
さんぽ
2026年01月10日 13:01 | 14
療養型病院は、夕方の光に沈んでいた。

最寄り駅から歩くにつれ、街の色が少しずつ薄れていく。
コンビニの看板は減り、代わりに色褪せた住宅と、使われていない公園が増える。
地図アプリが示すピンは、現実から半歩ずれた場所に刺さっているように見えた。

病院の門は開いていた。
だが「歓迎」ではない。ただ、閉じる理由を失っただけの開放だった。

受付には人がいない。
呼び鈴を押しても反応はなく、廊下の奥から聞こえるのは、機械の低い駆動音と、誰かの咳払いだけだ。

――来るな。

そう言われている気がした。
それでも足は止まらなかった。

ナースステーションの壁に貼られた掲示物の端が剥がれ、下から古い紙が覗いている。
そこに、見覚えのあるフォントがあった。

ID管理表。
患者識別コード。

「……8297A4B1」

思わず声に出してしまう。
桁数も、アルファベットの配置も、完全に一致していた。

廊下の突き当たり、カーテンで仕切られたベッドの一つ。
その前で、足が止まる。

中にいるのは、老人だった。
やせ細った身体。点滴の管。焦点の合わない目。
だが、俺は一瞬で理解してしまった。

――ああ。

これは「今」ではない。

彼の脳波モニターに表示されている波形。
それは、記憶デバイスで再生した時と、同じパターンだった。

「……あなたが、8297A4B1か」

老人は反応しない。
だが、その指先が、わずかに動いた。

俺は、デバイスを取り出した。
再生ボタンに指をかける。

その瞬間、理解した。

あの記憶は――
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