キング オブ バトル

制作者: クロマル ラノベ風
第1話 地下へ——二人の狂戦士
投稿者: クロマル
地下五十メートル。

コンクリートの壁。むき出しの配管。錆びた鉄骨。

階段を降りると、轟音が耳を叩く。

「うおおおおおおぉぉ!」
「殺せ殺せ殺せ!」
「血だ!もっと血を見せろ!」

観客席は満員。いや、満員を超えてる。通路にも人が溢れ、手すりにしがみつき、天井の梁にまでぶら下がって——みんな叫んでる。

中央にリング。

いや、リングじゃない。ただの円形コンクリート。直径二十メートル。周囲に鉄柵。

照明が落ちた。

「——————さぁぁぁぁぁて!!!」

スポットライトが一点を照らす。

黒いタキシードの男。金色の仮面。右手にマイク。

「お待ちかねえええええええぇぇ!!」

観客が沸く。いや、爆発する。

「ここは地獄の底!法も正義も届かぬ闇!ルールなき戦場!武器ウエポンなんでもあり!唯一のルール——それは!!!」

男が叫ぶ。

「勝者が全て!!敗者は塵!!!」

観客「うおおおおおおお!!!!」

「本日のメインイベント!未来のキングを決める戦い!まずは——」

スポットライトが東側を照らす。

「氷の刃!計算尽サイコロジーの天才!氷室ひむろ——————ジン!!!!」

暗闇から一人。

細身。黒のライダースジャケット。銀のチェーン。白髪の短髪。青い瞳。

表情、なし。

「……」

無言で歩く。リングに上がる。観客を見ない。

「お、おおお……」
「あいつが……」
「噂の……」

ざわめきが広がる。

「そして!!!」

スポットライトが西側へ。

「剛力の化身!破壊の権化!豪田ごうだ————鋼牙コウガ!!!」

地響き。

いや、足音だ。

巨漢。身長二メートル超。筋肉の塊。赤いタンクトップ。傷だらけの腕。野性的な黒髪。鋭い目。

「フンッ……!」

鼻を鳴らす。リングに飛び乗る。コンクリートが軋む。

二人、向かい合う。

距離、十メートル。

「……」
「……」

無言。

観客「おおおおおおお!!!」

司会者「さぁさぁさぁ!どちらが勝つ!?こおりか!?はがねか!?テクか!?パワーか!?運命の——」

マイクを高く掲げる。

「——戦闘開始バトルスタート!!!」

ゴォォォォン。

鐘が鳴る。
第2話 氷刃、疾る
投稿者: クロマル 暴力描写
ゴングの余韻。

しん、と静まり返る。 いや、観客は叫んでる。 でも、二人には届いてない。

先に動いたのは、剛——豪田 鋼牙。

「オラァァァァァッ!!」

地響き。 コンクリートを踏み抜く勢い。 巨体が、弾丸みたいに突込む。

赤いタンクトップが風圧で膨らむ。 デカい拳。

迅、動かない。 青い瞳が、拳の軌道を見つめてる。

スレスレ。 顔の皮膚が、風圧で揺れる。

「!」

迅、いない。 黒いジャケットの残像だけ。

鋼牙「……チッ」

観客「き、消えた!?」 観客「バカ!後ろだ!」

迅、鋼牙の真後ろに立ってる。 いつの間に。

鋼牙「逃げ足だけかよ、天才さん!」

振り返りざま、剛腕が唸る。 ブンッ!

迅、頭を下げる。 鋼牙の腕が、迅の髪を数本、ちぎった。

「オラ!」「オラ!」「オラァ!」

ラッシュ。ラッシュ。ラッシュ。 力の奔流。

迅、すべて避ける。 最小限の動き。 まるで、激しい風雨の中を、濡れずに歩くみたいに。

観客「……な、なんだありゃ」 観客「かすりもしねぇ……!」

鋼牙の拳が、一瞬だけ、止まる。 コンマ一秒。

迅「……終わりか?」

鋼牙「なっ……!」

迅、踏み込む。 鋼牙の懐。 そこは、近すぎて拳が打てない死角ブラインド

刃のような、鋭い蹴り。 鋼牙の巨体を狙うんじゃない。

ピンポイント。

鋼牙の左膝。その、関節の隙間。

ゴッ!!

鈍い音。

鋼牙「ぐ……ぉ……っ!?」

鋼鉄の巨体が、初めてぐらつく。 片膝が、コンクリートに落ち——

いや、耐えた。

鋼牙、傷だらけの腕で、膝を押さえる。

迅、もう三メートル後ろ。 定位置。 表情、なし。

観客「……」 観客「……お、おおおおおおお!!!」 観客「あ、あの豪田 鋼牙が!?」

鋼牙、ゆっくりと顔を上げる。 鋭い目が、カッと見開かれる。

鋼牙「……ハッ。面白い……!面白いじゃねぇか、氷室 迅……!!」
第3話 第三話 反撃の剛拳
投稿者: クロマル
迅、クールな表情のまま。 三メートル離れた位置で、ゆっくりと構えを解く。

迅「……終わりか? 立てるか?」

観客「う、動かねぇぞ!」 観客「そりゃそうだ!あんな関節蹴りまともに喰らったら……!」

鋼牙、まだ膝を押さえたまま、うつむいている。 だが……肩が、小刻みに震えている。

鋼牙「……ククク」

迅「?」

鋼牙「……ハッ。ハハハハ!アッハハハハ!!」

観客「な、笑ってやがる……!」

鋼牙、ゆっくりと顔を上げる。 その目は、さっきよりもギラギラと燃えていた。

鋼牙「……面白い。面白いじゃねぇか、氷室 迅! テメェの“技”は、確かに俺の膝に届いた」

ゴキッ、ゴキキッ!

鋼牙、なんと、押さえていた手で膝の関節を無理やり動かし、音を立てる!

鋼牙「だがなぁ……それがお前の全力か?」

迅「……!」

鋼牙「俺の“剛”は、そんなヤワなモンじゃねぇんだよ!!」

ドゴォォォォン!!!

鋼牙がコンクリートの床を強く踏みしめる! ひび割れる床!

観客「ば、ばかなっっっ!!! 膝を蹴られたんだぞ!?」

鋼牙「うおおおおおおぉぉ!!」

さっきまでの突進とは違う。 一歩、また一歩。 地響きを立てながら、確実に迅との距離を詰める。

迅「(……まずい。さっきの間合いじゃない)」

迅、再び距離を取ろうとバックステップ! だが——

鋼牙「遅えよ!!」

鋼牙の巨体が、跳ぶ! 膝の負傷なんて、まるで感じさせない跳躍!

鋼牙「喰らえやァァァァ!! 剛力破砕拳ごうりきはさいけん!!!」

右拳が振りかぶられる。 ただのパンチじゃない。空気が、唸りを上げている!

迅「(速さじゃない!……“圧”だ!)」

迅、とっさに両腕をクロスして顔面をガードする。

ドガァァァァァァァン!!!!

凄まじい衝撃音!

迅の細身の体が、まるでボールみたいに吹っ飛んだ!

ガシャァァァァン!!!

リング(ただのコンクリート)の端にある鉄柵に、背中から叩きつけられる! 鉄柵が、大きく歪む。

迅「ぐっ……ぉ……!」

観客「…………」

一瞬の静寂。

観客「う、うおおおおおおおおお!!!」 観客「吹っ飛んだぞ!あの氷室 迅が!!」 観客「なんだ今の拳!?風圧だけでこっちまで空気が震えたぞ!」

鋼牙、リング中央に仁王立ち。 湯気のように汗を蒸発させながら、歪んだ鉄柵に張り付く迅を睨む。

鋼牙「言っただろ……。これが俺の“剛”だ」

迅、ゆっくりと顔を上げる。 その青い瞳が、初めて見開かれていた。

迅「……まさか……貴様……! 筋肉の“鎧”で……関節の損傷を無理やり固定した、だと……!?」

鋼牙「ハッ。難しいこたァ知らねぇ。気合だよ、気合!」
第4話 激突!氷と鋼
投稿者: クロマル
ガシャァン……!
歪んだ鉄柵。

叩きつけられた迅が、ゆっくりと顔を上げる。
その口元が……吊り上がった。

迅「……フッ。少しは面白くなってきたようだな」

鋼牙「!?」
観客「わ、笑ったぞ!?」
観客「あの氷室 迅が!」

迅、鉄柵を強く蹴る。
バシュンッ!

空気を切り裂く音。
黒いジャケットが、再び残像になる。

鋼牙「(速い!さっきより……!?)」

迅、鋼牙の死角——背後に回る。

迅「お返しだ。……氷刃旋風脚ひょうじんせんぷうきゃく!」

鋼牙「!」

銀色の閃光。
いや、迅の連続蹴りだ。
鋼牙の巨体。その、さっき負傷した左膝に、再び集中砲火!

ダダダダダッ!!

鋼牙「ぐ……ぉ……っ!」

観客「み、見えねぇ!」
観客「なんだ今の動きは!?」

鋼牙、数歩よろめく。
さすがの巨体も、バランスを崩す。

鋼牙「……チッ。小賢しい真似を……!」

鋼牙、再び拳を握る。
さっきの「剛力破砕拳」。
空気が、また唸りを上げる。

鋼牙「逃がさねぇぞ!」

迅「(同じ技……!)」

ドガァァァン!

コンクリートが砕ける。
だが、そこに迅はいない。

迅、鋼牙の頭上。
リングサイドに飛び退き、観客席の手すりに着地している。

鋼牙「な、なにぃーーーー!?」
観客「い、いつの間に!?」
観客「あそこまで飛んだのか!」

迅「……それがお前の全力か? その大振りじゃ、俺には当たらん」

鋼牙「……うるせぇ!!」

鋼牙、跳ぶ。
また跳躍。
巨体が、手すりに向かって飛ぶ!

鋼牙「落ちてこいやァァァ!!」

迅、手すりを蹴る。
空中。
二つの影が、交差する。

ガギンッ!!!

拳と、蹴りがぶつかる音。
火花が散ったように見えた。

観客「ば、ばかなっっっ!!! 空中で!?」
観客「人間じゃねぇ!」

二人、同時に着地。
リング中央。
距離、五メートル。

迅「……」
鋼牙「……ハァ、ハァ……」

お互い、無傷。
いや……違う。

迅のブーツの底が、少し欠けている。
鋼牙の拳の甲から、血が数滴、落ちている。

観客「…………ごくり」

司会者「(マイクを握りしめ)……こ、これは……! まさに互角! 一進一退! どちらも一歩も引かねぇぇぇぇ!!」
第5話 氷の原点
投稿者: クロマル
鋼牙「ハッ……どうした? 天才さん。その程度か?」

鋼牙が煽る。鋼牙の「剛」の力。 それは、迅が最も嫌悪し、そして、心のどこかで恐れていた「力」そのものだった。 計算も、ロジックも、すべてを粉砕する理不尽なまでの熱量。

迅「……うるさい」

脳裏を、焼けた匂いと埃っぽい記憶がよぎる。

(……そうだ。俺の世界は、いつだって理不尽だった)

氷室迅の強さには、明確な「原点」がある。 彼が「計算」という名の刃を研ぎ澄ませるしかなかった理由。

それは、雨漏りが止まらない貧民窟スラムの片隅で、冷たくなっていく母の手を握りしめた日のことだ。 病名はわからない。医者に見せる金など、最初から無かった。 幼い迅は、悲しみよりも先に、強烈な「飢え」と「無力感」を覚えた。

残されたのは、三つ年上の姉と二人だけ。 姉は、自分の分け前である硬いパンを、いつも黙って迅に差し出した。 「二人なら、大丈夫。……二人で、ここから出るんだよ」 そう言って笑う姉の顔が、迅の世界のすべてだった。

しかし、その小さな世界も、貧民窟スラム牛耳ぎゅうじるボスの手によって簡単に踏みにじられた。 暴力と搾取。それが、この場所のルール。 姉が必死で稼いだわずかな金も、何度も奪われた。

(力がなければ、守れない。……計算だけでは、足りない)

そして、運命の日が訪れる。 いつものように金を要求しに来たボスが、成長した姉に汚らわしい手を伸ばした、その瞬間。

迅の中で、何かが切れた。

「やめろ」

ボスの前に立った迅の体は、まだ子供のそれだった。 だが、その目。 凍てつくような青い瞳に、ボスは一瞬、怯んだ。

ボス「……なんだ、このガキ……」

そこからは、覚えていない。 ただ、「計算」が「殺意」に変わった。 どうすれば最短でコイツを壊せるか。 迅は、落ちていた鉄パイプを手に取り、ボスの急所だけを、何度も、何度も——。

ボスが血の海に沈んだ時、迅は貧民窟スラムの新たな「最強」になっていた。

だが。 守りたかったはずの姉は、その混乱の中で、姿を消した。 連れ去られたのか、恐怖して逃げたのか。 それすら、もうわからない。

(……そうだ。俺は、何も守れなかった)

迅は、ゆっくりと顔を上げる。 目の前の、鋼牙を睨み据える。 その瞳は、先ほどまでの揺らぎが消え、絶対零度の「氷」に戻っていた。

迅「……ぐっ、まさか……貴様のような男が……俺の過去《トラウマ》を抉るとはな……!」

鋼牙「あ? 何ブツブツ言ってやがる!」

迅「(……もう迷わない。俺の技は、守るためにある。……姉さんを、見つけ出す、その日まで)」

迅が、再び構える。 その殺気オーラは、明らかに先ほどまでと質が違っていた。

観客「な、なんだ……!?」 観客「空気が……急に冷たくなったぞ……!?」
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