読み込み中...

毒饅頭事件

制作者: 冬至梅
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 15話で完結

概要

第1話
冬至梅
2025年12月18日 16:40 | 58
氷室ひむろ慎一しんいち警部は会議室の中央に立ち、ホワイトボードを見つめていた。捜査一課の空気は静かだが張り詰めている。氷室は腕を組み、深く息をついた。

***

 事件は三日前、繊維会社『大藤だいとうテキスタイル株式会社』に届けられた小包から始まった。送り主は老舗しにせ和菓子屋『雅芳堂がほうどう』。新商品の試作品として饅頭まんじゅうが一箱、メッセージと共に送られた。だが、社長・大藤だいとう宗治そうじはこれを「下世話なもの」として嫌い、常務の桑原くわはら達也たつやに譲った。

 開封の場に居た社員が語ったところでは、饅頭も箱もすでに発売されている定番商品とまったく同じで、新商品らしい特別さは微塵も感じられなかったという。それでも甘党の桑原は気にせず、八つの饅頭を五人の部下と分け合って食べ、一つは外勤中の社員の分として残しておいた。

 しかしその30分後、饅頭を口にした全員が突然痙攣けいれんを起こし、次々と床に倒れ込んだ。二つ食べた桑原は特に症状が重く、搬送先の病院で息を引き取った。
 残された一つの饅頭を鑑識が調べたところ、内部にトリカブト由来の猛毒・アコニチンが注射されている痕跡こんせきが見つかった。

 警察が雅芳堂に連絡したところ、店側は「そのような饅頭を送った覚えはまったくない」と断言した。送り状は店の名をかたっており、添えられたメッセージはかつて雅芳堂が使用していた専用便箋びんせん。しかし、その便箋は一年前に使用を停止している。包装紙はどこでも手に入る一般品だ。
 つまり、事件は和菓子屋での毒混入ではなく、大藤社長、あるいは会社を狙って巧妙に仕組まれたものである可能性が高い。便箋を手に入れられる人間は多く、特定は難航していた。
 さらに小包は、都内の運輸会社営業所に直接持ち込まれ、午前11時17分に受け付けられていたことが判明。防犯カメラは死角が多く、決め手に欠けた。

 大藤社長への事情聴取で、心当たりがある人物は一人だけだった。現在アメリカ在住で離婚調停中の妻・大藤だいとう玲子れいこ

「私が死ねば、遺産は奴のものになる」

 社長はそう述べたが、氷室はその言葉の裏に、説明し切れない個人的感情を感じ取っていた。

***

 氷室はマーカーを戻し、スーツの上着を取った。

「……ここは、奴に話を聞く必要がありそうだな」

 氷室は無言で会議室を後にした。
この小説をシェア
このパートからの分岐 (1)
雅芳堂にて

雅芳堂は、都心から少し外れた商店街の一角にあった。 古びた木の看板、磨りガラスの引き戸。店先には季...

蒼月(そうげつ) 蒼月(そうげつ)
12/19 16:49
全階層の表示(6件)
第1話 冬至梅 1 59
・|氷室《ひむろ》|慎一《しんいち》警部は会議室の中央に立ち、ホワイトボードを見つめ...
第2話 雅芳堂にて 蒼月(そうげつ) 1 49
・雅芳堂は、都心から少し外れた商店街の一角にあった。 古びた木の看板、磨りガラス...
第3話 情報整理 その一 冬至梅 0 52
・夕方の捜査一課は、昼間とは別の緊張を帯びていた。氷室警部は会議卓の端に立ち、ホワ...
第4話 名古屋にて 蒼月(そうげつ) 1 31
・神崎修司は、名古屋駅から私鉄を乗り継ぎ、閑静な住宅街へとたどり着いた。 堀田正...
第5話 情報整理 その二 冬至梅 0 38
・捜査一課のフロアは夜の|帳《とばり》に包まれ、外の雨音が窓ガラスを叩いていた。氷...
NEW 第6話 十五年の沈黙 蒼月(そうげつ) 1 29
・梶元之は、都内のビジネスホテルのロビーで刑事たちを待っていた。 窓の外では、十二...
コメント
コメントを投稿するにはログインしてください。

ユーザー登録でみんつぐをもっと楽しもう!

お気に入りの小説の更新通知が届く

フォローした作家の新作をすぐに確認

好きな作品にいいね・コメント

感動を作者に直接届けられる

マイページで投稿を管理

自分の作品やいいねを一覧で確認

小説を書いてリレーに参加

新作を始めたり続きを自由に書ける

気になる作家をフォロー

好きな作家の新作をすぐチェック

分岐ツリーで展開を可視化

ストーリーの分岐を一目で確認

他にもみんつぐを楽しく便利に使う機能が充実!

無料で新規登録

すでにアカウントをお持ちの方は