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毒饅頭事件

制作者: 冬至梅
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 15話で完結

概要

第3話 情報整理 その一
冬至梅
2025年12月22日 11:03 | 51
夕方の捜査一課は、昼間とは別の緊張を帯びていた。氷室警部は会議卓の端に立ち、ホワイトボードに貼られた写真とメモを見渡した。正面には神崎かんざき修司しゅうじ坂上さかがみ琴枝ことえ一色いっしき智弘ともひろの三刑事が並び、各自が手帳を開いている。

「それじゃ、整理しよう」

 氷室の低い声に、室内の空気が引き締まった。

「まず、大藤テキスタイルと雅芳堂。現時点で直接の接点は確認できていません」

 一色が報告した。

「大藤社長は饅頭を自分では食べず、被害者の桑原に渡しました。『下世話なものだ』と」

「雅芳堂の店主、中谷よし江も同じですね」

 坂上が手帳をめくりながら補足する。

「警部の聞き取りによれば、なぜ自分の店が使われたのか、見当もつかないと言っています。大藤社長とも面識はほとんどありません。ただし……」

「先代の中谷源蔵だ」

 氷室が言葉を引き取った。

「源蔵は生前、大藤宗治と付き合いがあったらしい。十五年前に亡くなっているが、その関係の中身は不明だ」

 神崎が腕を組み、考え込むように唸った。

「過去の付き合いですか。恨みか、借りか……どちらにしても、今の二人には繋がらないのでは」

「そうだ。現時点では線にならない」

 氷室は一度視線を落とし、次の資料を指で叩いた。

「次に、社長が挙げた唯一の心当たり。妻の大藤玲子」

 坂上が即座に反応する。

「離婚調停中で、現在はアメリカ在住。動機はあっても実行可能性が低いですね」

「少なくとも単独犯なら無理がある」

 氷室は淡々と続けた。

「つまり、感情論で追う容疑者はいない。残るは物証と行動だ」

 そう言って、ホワイトボードの中央に貼られた二枚の写真を指し示す。一枚は雅芳堂の便箋、もう一枚は運輸会社営業所の外観だ。

「鍵は二つ。雅芳堂の専用便箋と、荷物の持ち込み時間」

 一色が前のめりになる。

「便箋は一年前に使用をやめています。つまり……」

「犯人はその便箋を入手できた人間か、あるいは一年以上前に入手して保管していた人物だ」

 氷室はそう言い切った。

「雅芳堂の関係者、元関係者、あるいは店に頻繁に出入りしていた者。範囲は広いが、無限じゃない。
 営業所への持ち込み時間は、12月8日、午前11時17分」

 氷室の声が、わずかに強まった。

「あそこの防犯カメラは死角が多くて、顔がはっきり映っていない。だが、その時間に持ち込んだ人間が犯人、もしくは協力者であることは間違いない」

 一瞬、沈黙が落ちた。氷室は資料の束から一枚を抜き取り、机に置いた。

「そこで次の一手だ」

 その紙に記されていた名前を、神崎が読み上げる。

「……堀田正彦。雅芳堂の元従業員」

 氷室は頷いた。

「中谷よし江の話では、源蔵が亡くなる十五年前まで店で働いていた。先代と大藤宗治の関係を知っている可能性がある」

「現在は名古屋在住、七十代」

 坂上が情報を補足する。氷室は神崎に視線を向けた。

「神崎、名古屋へ行け。堀田正彦に直接会って話を聞くんだ。どんな些細ささいなことでも構わない」

「承知しました」

 神崎は即答し、立ち上がった。その顔には僅かな緊張と同時に、刑事としての昂ぶりが浮かんでいる。
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