童話異聞録その1「浦島太郎」
制作者:
A5
二次創作
小説設定:
|
連続投稿: 可
|
投稿権限:
全員
|
完結数: 10話で完結
概要
「浦島太郎」のお話をベースに、違う結末にしていきたいと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
廊下を走る自分の足音だけが、やけに大きく響く。
ハア、ハア、と荒い息が喉を焼くようだ。
(とにかく、逃げなきゃ)
さっき見た光景が、頭から離れない。
緑色の液体。水槽の中の何か。そして、乙姫の冷たい声。
ここは夢のような竜宮城なんかじゃない。海の底の、実験場だ。
目指すは、最初に入ってきた白い船渠。
あそこなら、カメーリアが大きくなった場所がある。何か脱出の手がかりがあるかもしれない。
今のカメーリアが敵か味方かわからないけれど、このままここにいるよりはマシだ。
「はあっ、はあっ……!」
見覚えのある、無機質なエアロックのような通路が見えてきた。
あと少し。あの扉を抜ければ。
太郎は最後の力を振り絞り、扉の開閉ボタンを叩いた。
プシュウウウ……と、圧縮空気が抜けるような音と共に、重厚な扉がスライドする。
「……あっ」
開いた扉の向こう。
そこに、誰かが立っていた。
白衣のような衣装。艶やかな黒髪。
乙姫だった。
彼女は、まるで最初から太郎がここに来ることを知っていたかのように、静かに佇んでいた。
そして、太郎の顔を見ると、ふわりと微笑んだ。
宴の時と同じ、完璧で、美しい笑顔。
でも、その目は笑っていない。黒曜石のように硬く、冷たい光を宿している。
「あら、太郎さん」
鈴を転がすような、優しい声。
それが逆に、太郎の背筋を凍らせた。
「そんなに急いで、どちらへ行こうとするのかしら?」
心臓が早鐘を打つ。
ドクン、ドクン、ドクン。
口の中がカラカラに乾いて、うまく言葉が出てこない。
見られたのか? さっきの研究室でのことを。
「い、いや……その」
太郎は視線を泳がせた。
ここで「逃げる」と言ったら終わりだ。誤魔化さなきゃ。
なんでもいい。日常的な、取るに足らない理由を。
「ちょ、ちょっと……廁に」
沈黙。
重苦しい「間」が、二人の間に横たわる。
遠くで機械の駆動音がブーンと唸っているのが聞こえる。
乙姫は、小首をかしげた。
その表情は、母親が嘘をついた子供を諭すような、どこか哀れむようなものに見えた。
「廁? ……太郎さん」
乙姫が一歩、近づいてくる。
そして突然乙姫の冷たい笑顔が豹変して
「嘘だ!!!!!!!!!!!!」
空気を切り裂くような絶叫。
びりびりと鼓膜が震える。
目は血走り、口元は歪み、能面が砕けたような恐ろしい形相。
「あなた、見たのね!? 私の研究を、あの大事なサンプルたちを!」
乙姫が懐から、あの光る板を取り出した。
激しく画面をタップする。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
けたたましい警報音が、ドーム全体に鳴り響いた。
通路の照明が、穏やかな白から、毒々しい赤へと切り替わる。
「セキュリティレベル5! 緊急事態発生!」
「検体名『浦島太郎』の逃亡を阻止せよ! 繰り返す、逃亡を阻止せよ!」
無機質なアナウンスが響く中、乙姫が叫ぶ。
「捕まえなさい! 生きたまま確保するのよ! 彼は貴重な『適合者』なんだから!」
「ひ、ひぃぃっ!」
太郎は脱兎のごとくきびすを返した。
ドックへの道は塞がれた。
戻るしかない。でも、どこへ?
赤いライトが点滅する廊下を、太郎は悲鳴を上げながら駆け出した。
ハア、ハア、と荒い息が喉を焼くようだ。
(とにかく、逃げなきゃ)
さっき見た光景が、頭から離れない。
緑色の液体。水槽の中の何か。そして、乙姫の冷たい声。
ここは夢のような竜宮城なんかじゃない。海の底の、実験場だ。
目指すは、最初に入ってきた白い船渠。
あそこなら、カメーリアが大きくなった場所がある。何か脱出の手がかりがあるかもしれない。
今のカメーリアが敵か味方かわからないけれど、このままここにいるよりはマシだ。
「はあっ、はあっ……!」
見覚えのある、無機質なエアロックのような通路が見えてきた。
あと少し。あの扉を抜ければ。
太郎は最後の力を振り絞り、扉の開閉ボタンを叩いた。
プシュウウウ……と、圧縮空気が抜けるような音と共に、重厚な扉がスライドする。
「……あっ」
開いた扉の向こう。
そこに、誰かが立っていた。
白衣のような衣装。艶やかな黒髪。
乙姫だった。
彼女は、まるで最初から太郎がここに来ることを知っていたかのように、静かに佇んでいた。
そして、太郎の顔を見ると、ふわりと微笑んだ。
宴の時と同じ、完璧で、美しい笑顔。
でも、その目は笑っていない。黒曜石のように硬く、冷たい光を宿している。
「あら、太郎さん」
鈴を転がすような、優しい声。
それが逆に、太郎の背筋を凍らせた。
「そんなに急いで、どちらへ行こうとするのかしら?」
心臓が早鐘を打つ。
ドクン、ドクン、ドクン。
口の中がカラカラに乾いて、うまく言葉が出てこない。
見られたのか? さっきの研究室でのことを。
「い、いや……その」
太郎は視線を泳がせた。
ここで「逃げる」と言ったら終わりだ。誤魔化さなきゃ。
なんでもいい。日常的な、取るに足らない理由を。
「ちょ、ちょっと……廁に」
沈黙。
重苦しい「間」が、二人の間に横たわる。
遠くで機械の駆動音がブーンと唸っているのが聞こえる。
乙姫は、小首をかしげた。
その表情は、母親が嘘をついた子供を諭すような、どこか哀れむようなものに見えた。
「廁? ……太郎さん」
乙姫が一歩、近づいてくる。
そして突然乙姫の冷たい笑顔が豹変して
「嘘だ!!!!!!!!!!!!」
空気を切り裂くような絶叫。
びりびりと鼓膜が震える。
目は血走り、口元は歪み、能面が砕けたような恐ろしい形相。
「あなた、見たのね!? 私の研究を、あの大事なサンプルたちを!」
乙姫が懐から、あの光る板を取り出した。
激しく画面をタップする。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
けたたましい警報音が、ドーム全体に鳴り響いた。
通路の照明が、穏やかな白から、毒々しい赤へと切り替わる。
「セキュリティレベル5! 緊急事態発生!」
「検体名『浦島太郎』の逃亡を阻止せよ! 繰り返す、逃亡を阻止せよ!」
無機質なアナウンスが響く中、乙姫が叫ぶ。
「捕まえなさい! 生きたまま確保するのよ! 彼は貴重な『適合者』なんだから!」
「ひ、ひぃぃっ!」
太郎は脱兎のごとくきびすを返した。
ドックへの道は塞がれた。
戻るしかない。でも、どこへ?
赤いライトが点滅する廊下を、太郎は悲鳴を上げながら駆け出した。
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