童話異聞録その1「浦島太郎」

制作者: A5 二次創作
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第8話 緑の影
クロマル
2025年11月21日 16:53 | 2
赤く点滅する廊下。
警報音が頭に響く。
自分の足音。息。

「はあっ、はあっ……!」

どこへ逃げればいい?
背後から、何かが追ってくる気配。
ガシャンガシャンという金属音。

(やばい、やばい、やばい……!)

角を曲がった、その時。
足下に何か小さい緑の塊が!?

「うわっ!」

咄嗟に避けた。危ない、踏み潰すとこだった。
手のひらサイズのカメーリアだ。

「か、カメーリア……!」
「なんじゃ……貴様、なぜそんなに慌てて……」

カメーリアが顔を上げた。
そして、太郎の表情を見て。

「……どうしたというのじゃ、太郎」

声のトーンが変わった。
いつものエラそうな調子じゃない。
本気で心配してる、そんな声だった。

「カメーリア、俺……!」

背後で金属音が近づく。
立ち止まってる暇はない。

太郎はカメーリアを掴み、走り出した。

「お、おい! 何事じゃ!」
「説明する! 走りながら!」

曲がり角を曲がる。また曲がる。
太郎は息を切らしながら、必死に言葉を絞り出した。

「乙姫が……研究室で……人間を、実験してる……!」
「何……?」
「水槽に、人間が……魚みたいに変えられて……!」

カメーリアの小さな体が、ぴくりと震えた。

「ま、まさか……」
「本当なんだ! 俺、見たんだ! 『サンプル』とか、『適合者』とか……!」
「そんな……」

太郎の手のひらの上で、カメーリアがうつむいた。
小さな声で、呟いた。

「……そんな、そんなはずは……。乙姫様が……」

「カメーリア?」

カメーリアが顔を上げた。
その小さな黒い瞳に、迷いと、決意が混ざっていた。

「……太郎」
「何だ?」
「わらわ、知らなかった。そんなこと、全然……」

カメーリアの声が震えている。

「わらわは、ただ『地上の観測』を命じられていただけじゃ。乙姫様が、そんなことを……」

「カメーリア……」

「でも」

カメーリアが、ぐっと首を持ち上げた。

「でも、太郎。貴様はわらわを助けてくれた」

「え?」

「だから、今度はわらわが、貴様を助ける番じゃ!」

太郎は立ち止まった。
カメーリアを見た。

小さな亀が、必死の顔で太郎を見上げていた。

「……本気か?」
「当たり前じゃ! わらわは竜宮の誇りにかけて、貴様を地上へ逃がしてみせる!」

背後の金属音が、すぐそこまで迫っていた。

「さあ、行くぞ! ドックまで案内する!」
「でも、あそこは乙姫が……!」
「大丈夫じゃ。わらわには『海戦用ボディ』がある。あれなら、ドームの壁だって突き破れる!」

カメーリアの目が、ぎらりと光った。

「信じろ、太郎! わらわを!」

太郎は、ぐっと拳を握った。

「……わかった!」

二人は走り出した。
警報音の鳴り響く、赤い廊下を。

カメーリアの小さな声が、太郎の手のひらから聞こえた。

「すまぬ、太郎……。わらわは、何も知らなかった……」
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