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カナトとサンタの村

制作者: 冬至梅
第1話 三枚のチケット
投稿者: 冬至梅
北極の空は、冬の星々が瞬き、ひんやりと透き通っていました。サンタクロースの村では、ふわりと舞い降りる粉雪が灯りに照らされ、金色の粒のようにきらめいています。おもちゃ作りの工房からは、木を削るコンコンという心地よい音、エルフたちの軽やかな足音、そして厩舎からは、時おりトナカイが鼻を鳴らす声が聞こえてきます。木の香りや甘いキャンディの匂いが入り混じり、村中がまるで一つの大きなクリスマス菓子のようでした。エルフたちは色とりどりのリボンを結び、おもちゃを磨き、子どもたちから届いた手紙を一枚ずつ丁寧に仕分けています。

 そんなにぎやかな村から少し離れた家の中では、サンタクロースが暖炉のそばの机に向かい、最後の仕上げを終えたところでした。ぱちぱちと音を立てる薪の火が、部屋いっぱいに木の焦げ香を満たしています。机の上には、まるで夜空の光そのものを閉じ込めたような、金色に輝く三枚のチケットがありました。

 そこへ、温かい湯気と共に優しいココアの香りが漂ってきました。サンタクロース夫人がマグカップをそっと運び、微笑みながら問いかけます。

「あなた、何かやってるの?」

 サンタは白いひげを揺らして微笑み返し、作り終えたばかりの三枚のチケットをそっと掲げました。

「これはね、招待状だよ。世界中の“いい子”のうち三人に届く特別なチケットさ。手にした子どもをクリスマスイブにこの村へ招いて、その子にとって一番素晴らしいプレゼントを、私が直接渡すんだ」

 チケットは暖炉の光を受けて、蜂蜜のような輝きをこぼしました。

 サンタは数人の信頼するエルフを呼び、慎重に三枚のチケットを託します。外に出ると、裏庭には小さな熱気球がひとつ、雪の上に静かに佇んでいました。エルフたちは胸に抱えたチケットを大切そうに抱え、熱気球へ乗り込みました。バーナーの火がぼうっと温かい音を立てると、熱気球はふわりと浮かび上がり、星明かりの夜空へゆっくりと飛び立っていきました。チケットの光はほのかに温かく、消えることなく輝いていました。

***

 ──そして、12月20日の日本。

 11歳の聖沢カナトは、しんと静まり返った母親の実家の縁側に座り、白い息が淡く立ちのぼるのをぼんやりと見つめていました。両親は離婚調停の最中で、今年の冬休みとクリスマスをここで過ごすことになったのです。乾いた木の香り、遠くから聞こえる風の音、指先に触れる冷たい空気。すべてが、胸の奥にぽつんと空いた寂しさを、よりはっきりと感じさせていました。
第2話 空から落ちてきた招待状
投稿者: あさり
鉛色の空。
絵の具を水で溶かずにそのまま塗ったような、重たいグレー。
カナトはため息をついた。白く濁った息が、すぐに消えていく。

「……つまんない」

ボソッとつぶやいた時だった。
頭上の雲の切れ間から、キラッと光るものが見えた。
最初は飛行機かと思った。でも、動きが違う。ゆらゆらと、まるで枯れ葉が舞うみたいにゆっくり落ちてくる。
その光は、庭の隅にある柿の木に引っかかった。

カナトはサンダルを突っかけて、庭に降りた。
土は霜柱が立っていて、踏むとザクザクと音がする。
木の枝に挟まっていたのは、金色のカードだった。
背伸びをして、手に取ってみる。

「……うわ、あったかい」

冬の冷たい外気の中で、そこだけカイロみたいに熱を持っていた。
表面には見たことのない文字。でも、なぜか読める。
縁取りは複雑な蔦模様で、真ん中にはソリの絵が描かれている。
紙というより、薄い金属板みたいだ。
角度を変えると、虹色に光が走る。すごく綺麗な細工だ。

「カナト、ご飯だよー」

家の中からおばあちゃんの声がした。
カナトは慌ててそのカードをズボンのポケットに突っ込んだ。
指先に残る温もり。
退屈なグレーの世界に、急に鮮やかな色が落ちてきたみたいだった。
第3話 茶色い食卓
投稿者: 冬至梅
家に入ると、台所から煮物の香りがふわりと漂い、カナトはおばあちゃんと無口なおじいちゃんと三人でちゃぶ台を囲みました。

 湯気の立つ煮物、ほくほくとした里いも、きんぴらごぼう。どれもおじいちゃんが育てた野菜を、おばあちゃんが丁寧に料理したものです。見た目は地味な茶色ですが、口に運ぶと、優しい土の香りと素朴な旨みが広がりました。

 けれど、カナトは食べながら、ずっとポケットの中に意識が向いていました。あの金色のカードがひっそりと潜んでいて、布越しでも、ほんのりとした温かさが肌に伝わります。
 こんな不思議なものを見つけたことを、おばあちゃんたちに話したほうがいいのか、胸の奥でそわそわと迷いが広がります。でも、口を開こうとすると、言葉はすぐに消えてしまい、カナトはそっと視線を落としたまま、黙ってもう一口を運びました。
第4話 期待と希望
投稿者: あさり
「カナト、少し痩せた?」

おばあちゃんが、煮物をお代わりする手を止めて、優しく眉を寄せました。

「……うん、大丈夫」

カナトは曖昧に答えて、茶碗に目を落としました。本当は、最近あまり食欲がなかったのです。学校でも給食を残すことが多くなっていました。

おばあちゃんは何も言わず、もう一つ里いもをカナトの小皿に乗せました。ほっくりとした湯気が立ち上ります。

「お母さんからは、また連絡あった?」

「うん。明日電話するって」

実際には三日前の約束でしたが、カナトは嘘をつきました。母は仕事と調停の準備で忙しく、電話の時間さえなかなか取れないのです。それを責めるつもりはありませんでした。ただ、心のどこかで──ああ、やっぱりな、と思っている自分がいました。

おじいちゃんは相変わらず無言で箸を動かしています。でも、時々こちらに目を向けているのが分かります。心配しているのでしょう。ただ、言葉にするのが苦手な人なのです。

カナトはポケットの中のカードに、そっと手を当てました。温かい。

──これは何だろう。

不思議と、そのことを考えると、胸の奥にあった重い霧が少しだけ晴れる気がしました。

「ごちそうさまでした」

カナトが立ち上がると、おばあちゃんが「お風呂、先に入っておいで」と声をかけました。

部屋に戻る途中、カナトは廊下の窓から夜空を見上げました。雲が切れて、星がいくつか見えています。

そういえば、あのカードが落ちてきたのも、あの雲の切れ間からでした。

カナトは自分の部屋に入ると、カードを布団の上に置いて、じっくりと眺めました。金色の光は、部屋の電灯の下でも、まるで内側から輝いているように見えます。

『特別招待状──聖沢カナト様へ』

それから、日付と場所が書かれています。

『12月24日 午後8時 北極 サンタクロースの村』

カナトは思わず、ふっと小さく笑いました。

「サンタクロース、か……」

そんなもの、もう信じていませんでした。

でも、このカードの温もりは本物です。
そして、自分の名前が書かれているのも、確かです。

カナトは静かに目を閉じました。

もしも──。

もしも、これが本物だったら。
第5話 12月24日の夕方
投稿者: 冬至梅
それから三日間はとても静かでした。カナトはこたつに足を入れて冬休みの宿題をしたり、持ってきていた漫画を読み返したりして過ごしました。それでも胸の奥はどこか空っぽで、窓の向こうから時おり聞こえる知らない子どもたちのはしゃぐ声が、その空洞をちくりと刺すようでした。

 そして迎えた12月24日の夕方、外は茜色の光が雲の端を照らし、冷たい風が微かに木々を揺らしていました。そんな中、おじいちゃんとおばあちゃんが慌ただしい足音とともにカナトの部屋を訪れました。

「……あー、カナト……」

 おじいちゃんは帽子を握りしめながら言いました。

「じいちゃんの姉さんがな……具合を悪くしたらしいんだ。わしらは今すぐ行かにゃならん。帰るのは……遅くなると思う」

「ご飯は作ってあるから、食べれるだけ食べてね」

 おばあちゃんは、煮物の香りをほのかに残した手でカナトの肩をそっとさすりました。

 おじいちゃんとおばあちゃんは玄関でコートを羽織り、ばたばたと出ていきました。カナトがその背中を見送ると、しんとした夕暮れの空気が家の中に入り込んできました。

 自分の部屋に戻ると、カナトは机のノートの下に隠していた金色のカードを取り出しました。カードは光を受けて、まるで脈打つように輝いています。今日は、カードに書かれていた12月24日。午後8時、北極、サンタクロースの村——。

 カナトは、ふるりと胸の奥が震えるのを感じながら、「北極なんて、今から行けるわけないって」と、自分に言い聞かせるように小さく呟きました。

 外は夕闇が降り、家の前を歩く人影も次第に少なくなっていきます。寒い風が軒先をかすかに揺らすその向こうで、カナトの知らないところでは——空の高みから、何かが静かに、確かに近づいてきていました。
第6話 星からの迎え
投稿者: 迦楼羅
掛け時計の針が、ゆっくりと時を刻んでいました。
 カチ、カチ、という乾いた音が、誰もいない居間に響きます。

 午後7時55分。
 カナトはダウンジャケットを着込み、縁側に出ていました。足元には霜が降りていて、靴の裏からじんわりと冷たさが伝わってきます。
 北極へ行くなんて、やっぱり夢物語かもしれない。
 心のどこかでそう思いながらも、ポケットの中のカードがカイロのように熱を発し続けていることが、カナトをこの場所に留まらせていました。

 やがて、遠くの寺の鐘がゴーンと鳴り響き、午後8時を知らせました。

 その時でした。

 世界から音が消えたような静寂と共に、頭上がふわりと明るくなりました。 カナトが見上げると、夜空の雲が音もなく裂け、そこから青白い光の柱が真っ直ぐに庭へと降りてきました。

 光の中を、何かがゆっくりと降りてきました。 滑らかな流線型をした、銀色の円盤のような乗り物。金属のようでいて、シャボン玉のように透き通っても見えます。 乗り物は静かに、カナトの目の前の畑にふわりと着陸しました。

「ゆ…UFO?」

 カナトは呆気にとられ、白い息を漏らしました。 サンタクロースが来るはずではなかったのか。銀色の船の一部が、音もなく開きました。中から眩しいほどの光が漏れ出し、 そして、一人の人物が姿を現しました。
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