社畜だった俺が異世界で温泉宿を始めたら、なぜか女神と魔王が常連客になりました。

制作者: Zelt ラノベ風
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第3話 勇者様ご来店
あさり
2025年11月07日 17:13
「丸投げかよ!!」

俺の絶叫は、こだますることもなく湯けむりに吸い込まれて消えた。 目の前には山積みの温泉卵。 そして「じゃ、私、温泉の管理に戻りますね♪」と、さっさと奥(たぶん源泉)に引っ込んでいく女神ユノ。

「……どうしろと」

宣伝? 誰に? この森の中で? 俺は途方に暮れ、その場にしゃがみ込んだ。 社畜時代、無茶ぶりな営業目標を押し付けられた日のことを思い出す。 異世界に来ても、やることは変わらないのか……。

その時だった。

ガサガサッ、と茂みが大きく揺れた。

「……!」

獣か? いや、それにしては金属音がする。 俺が身構えていると、森の中からよろよろと人影が現れた。

「すまない……誰か、いるか……?」

現れたのは、ボロボロの男だった。 ところどころ破損した銀色の鎧。泥と、何かの体液で汚れている。 腰に差した剣は、無残にも根元から折れていた。

(うわぁ……満身創痍じゃねぇか)

男は俺の姿を認めると、ふらつきながら一歩近づいた。

「すまないが、……。少しでいい、休ませてくれ…」

客だ! 魔王以来の、二人目の客! 俺は慌てて駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか! どうぞ、こちらへ!」

「助かる……。俺は、勇者……いや、今はただの敗残兵だ……」

「……はい?」

俺は男の顔を見て、固まった。 勇者? 今、勇者って言ったか?

「魔王軍の四天王に、またしても敗れて……もう、心も体も……」

勇者はそう言うと、俺の肩にもたれかかるようにして意識を失いかけた。

「おい! しっかりしろ!」

俺は必死で勇者を支え、宿の中へ引きずり込む。 (やばい、やばい、やばい!)

頭の中で警報が鳴り響く。 勇者ってことは、魔王の敵だよな!? もし、あの魔王(常連客)がまた「肩こりが〜」とか言ってやってきたらどうなる? この宿、更地になるんじゃないか?

(まずい! 早く帰さねば!)

俺は、意識を取り戻しかけた勇者に、鬼の心で告げた。

「あー……お客さん。すまないけど、ウチ、今ちょっとお湯の調子が悪くて……」

「そんな……。この匂いは、極上の湯だと……俺の鼻が言っている……」

「いや、それがですね、急に冷たくなったり熱くなったりで! とても入れる状態じゃ……」

俺が必死に嘘をついていると、奥からパタパタと足音が聞こえてきた。 最悪のタイミングで、あのポンコツ女神が戻ってきた。

「まぁ! お客様! ひどいお怪我です!」

ユノは勇者の姿を見るなり、目を輝かせた(ように見えた)。

「いけません! そんなお体では! さぁ、すぐに《ゆのや》の癒しを!」

「おい、ユノ! 今、湯の調子が……」

「大丈夫です、店長! 私が神気(しんき)を込めて、最高のコンディションにしておきましたから!」

「(余計なことをォォォ!!)」

ユノはにっこりと微笑み、勇者の腕を取った。 「ささ、脱衣所はこちらです。ゆっくり浸かって、傷を癒してくださいね♪」

「あ……あぁ。すまない、女神さま……?」

勇者は、ユノの神々しい(?)雰囲気と優しさに、すっかり警戒を解いている。 そのまま、ふらふらと湯殿のほうへ消えていった。

「…………」

俺は、ロビー(とも呼べないただの板の間)で一人、胃を押さえた。 頼む。 頼むから、魔王、今日は来るなよ……!
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魔王様ご来店(絶対来ると思ったよ!)

勇者が湯殿に消えてから、まだ五分も経ってない。 なのに。 なのに! 玄関のほうから、聞きたくなか...

Zelt Zelt
11/14 12:54
ストーリーツリー(階層表示)
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勇者が湯殿に消えてから、まだ五分も経ってない。 なのに。 なのに! 玄関のほうから、聞きたくなか...

Zelt 1
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