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社畜だった俺が異世界で温泉宿を始めたら、なぜか女神と魔王が常連客になりました

制作者: Zelt
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第6話 戦乙女、襲来
Zelt
2025年12月05日 13:53 | 85
「……よし。これで完璧だ」

俺は手帳に書き込んだ『オペレーション・生存戦略』を見つめ、深く頷いた。
数日間の決死の接客を経て、俺は一つの真理にたどり着いたのだ。

勇者は、午前中に。
魔王は、午後に。

つまり、勇者には午前中のみ運営してるといい、魔王には午後から運営してると伝え、営業時間看板も二種類用意して入れ替える!
この完璧なシフト管理こそが、俺がこの異世界で生き残る唯一の道だ。

「ふぅ……」

午前の営業(勇者対応)を無事に終え、俺は縁側で一息ついていた。
横には、入浴後の女神ユノ。
湯上がりの肌が午後の日差しを受けて白く光っている。

「ん〜っ!これこれ!やっぱりお風呂上がりはこれですよねぇ〜」

ユノが幸せそうな顔で頬張っているのは、茶色い皮に包まれたふっくらとした物体。
温泉饅頭だ。
俺が前世の記憶を頼りにレシピを教え、ユノが素材(小麦粉?)を出して作った新作だ。
湯呑みに入った緑茶から、細い湯気が立ち上っている。

「まさか異世界で饅頭と茶をすすることになるとはな……」

俺も一口かじる。
こしあんの甘さが、疲れた脳に染み渡るようだ。平和だ。
風が木々を揺らす音と、遠くで聞こえる鳥の声。
これだよ。俺が求めていたスローライフは。

ふと、気になっていたことを聞いてみる。

「なぁユノ。あんた、魔王とは普通に喋ってるけど……攻撃とかされないのか?一応、女神と魔王って敵対関係だろ?」

「んぐ、んぐ……ぷはっ。あ、お茶おいし」

ユノはのんきにお茶をすすってから、ケラケラと笑った。

「あー、それですか?大丈夫ですよぉ。だって私、攻撃力ゼロですから!」

「……ゼロ?」

「はい!戦闘能力皆無!ただお湯を出すだけ!だから魔王さんも『張り合いがない』って言って、私のことはアウトオブ眼中なんですよ」

「女神としてそれでいいのか……」

「平和が一番です〜。あ、でも……」

ユノは饅頭の最後の一欠片を口に放り込みながら、思い出したように言った。

「ヴァルちゃんたちは、魔王さんと仲悪いからなぁ。顔合わせたら即、戦争ですね」

「……だれだ、そのヴァルちゃんって」

「ヴァルキリーのヴァルちゃんです。私の友達!」

ブッ!!
俺は飲んでいた茶を吹き出しそうになった。

戦乙女ヴァルキリー!?」

その単語は、俺のゲーマー知識を刺激した。
戦乙女。神の軍勢。戦場を駆ける勝利の女神。
だいたいどこのゲームでも、物理攻撃特化の超・武闘派ユニットとして描かれる存在だ。

「……おい待て。そんな物騒な知り合いがいるのか?そいつ、まさかここに来たりしないよな?」

「えー?どうでしょう?温泉好きって言ってましたけど」

「やめろ!フラグを立てるな!そんなのが来たら……」

俺が言いかけた、その時だった。

ヒュンッ!!!

空気を切り裂く鋭い音が響いたかと思うと、上空から「何か」が猛烈な勢いで降ってきた。

ズドォォォォン!!

「うわぁっ!?」

宿の前の地面が爆発したかのように土煙を上げる。
衝撃で、縁側の湯呑みがカタカタと震えた。
土煙が晴れると、そこにはクレーターの中心に立つ一人の凜々しい女性の姿があった。

銀色に輝く重厚な鎧。
背中には、白銀の翼。
そして手には、身の丈を超える巨大な槍。
燃えるような赤い髪をなびかせ、その女性はニカッと笑った。

「よぉーっすユノ!温泉宿ひらいたんだってなー!祝いに来てやったぞ!」

「あ!ヴァルシアちゃん!いらっしゃーい!」

ユノがパタパタと手を振る。
俺はあいた口がふさがらなかった。
嘘だろ。噂をすればなんとやら、にも程がある。

「おうおう、ここが噂の『ゆのや』か!いい硫黄の匂いじゃねぇか!最近、魔族狩りで疲れててよぉ、ひとっ風呂浴びさせてくれや!」

豪快に笑いながら、銀の鎧をガシャガシャ言わせて近づいてくるヴァルシア。
(後から聞いた話だがヴァルキリー一族は名前の頭にみんなヴァルを付けるそうだ)

「魔族狩り……」

その物騒な単語に、俺の顔色がサァッと青ざめる。
待て。
ちょっと待て。

俺は恐る恐る空を見上げた。
太陽は、中天を過ぎて西に傾き始めている。

現在は、午後。
俺の完璧なシフト管理によれば、午後は——

「……魔王がくる時間帯……」

その時、森の奥から、黒い霧がゆらりと近づいてくるのが見えた。

「あら……?なんだか今日は、鼻につく神の臭いがするわね……?」

聞き覚えのある、冷ややかで美しい声。

俺はガクガクと震える膝を押さえ、天を仰いだ。
温泉饅頭の甘い余韻は、一瞬にして絶望の味へと変わっていた。
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あさり あさり
12/11 13:38
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