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社畜だった俺が異世界で温泉宿を始めたら、なぜか女神と魔王が常連客になりました

制作者: Zelt
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第7話 魔王様、トトノウ...
あさり
2025年12月11日 13:38 | 108
「あら…?なんだか今日は、鼻につく神の臭いがするわね…?」

魔王さまが鼻をピクピクさせている。
やばい。めちゃくちゃ勘が鋭い!
俺の背中を嫌な汗が滝のように流れる。今この扉の向こう、湯殿には魔族絶対殺すウーマンこと、戦乙女ヴァルシアが入ってるんだぞ!?

「あ、あはは!それはですね!さっきまで女神のユノがいたからですよ!あいつ、ほら、無駄に神々しいじゃないですか!その残り香です、残り香!」

俺は必死で言い訳をまくしたてた。
実際、ユノもさっきまでいたし、嘘ではない。嘘ではないが…。

「ふぅん。まあいいわ。あの能天気な女神なら害はないし」

魔王さまは興味なさそうに肩をすくめると、スタスタと脱衣所へ向かおうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

俺は両手を前にして立ちふさがった。

「なによ。邪魔なんだけど」

「き、今日は!そう、今日もスペシャルマッサージなんていかがですか!?俺のゴッドハンドで、魔王さまの腰痛も一発解決ですよ!?」

この前はあれだけ気に入ってくれたんだ。これなら食いつくはず!
そう思ったのに、魔王さまは気だるげに首を横に振った。

「今日はいいわ。戦続きで肌が荒れてるから、ゆっくりお湯に浸かりたい気分なの」

「そ、そんなぁ!」

断られた!万事休す!
このままじゃ魔王とヴァルシアが裸の付き合いをしてしまう!そして始まるのは混浴女子会じゃなくて、聖魔大戦だ!

「どいて」
「い、いや、でも!」
「消し炭にされたいの?」

魔王さまの右手に黒い球体が浮かぶ。ヒィッ!
俺は半泣きでその場を逃げ出した。

「ゆ、ユノぉぉぉ!どこだぁぁぁ!」

俺は裏庭へダッシュした。あのポンコツ女神なら、きっとなんか隠し持ってるはずだ!いや、持っててくれ!
すると、宿の裏手の岩陰で、ユノがスコップ片手に泥だらけになっていた。

「あ、店長!奇遇ですねぇ」
「奇遇とか言ってる場合か!中がヤバいことになってるんだよ!ってかお前、そこで何してんだ?」

そこには、石を積み上げて作ったカマクラみたいな小さな小屋があった。
隙間から猛烈な熱気と蒸気が漏れ出している。

「ふふふ、見つかっちゃいました?実は私、こっそり『蒸し風呂』を作ってたんですよ!」
「蒸し風呂…って、サウナか!?」

「そうです!ここの源泉、温度が高すぎて捨ててた分があったじゃないですか。もったいないから、石にかけて蒸気を発生させる部屋を作ってみたんです!名付けて『女神の灼熱部屋』」

ネーミングセンスは最悪だが、これは…使える!
俺は小屋の横を見る。そこには、近くの川から引いた水を溜めた、キンキンに冷えた水桶風呂もあった。

「ユノ、お前…今回ばかりは女神に見えるぞ!」
「え?いつも女神ですよ?」

俺はユノの手を引っ張って、魔王さまの元へ戻った。
ちょうど脱衣所に手をかけようとしていた魔王さまに、俺は叫ぶ。

「魔王さま!お待ちください!実は本日、新装開店のVIPルームが完成したんです!」
「…VIPルーム?」

「はい!ただお湯に浸かるよりも、美肌効果が段違い!魔界のセレブもまだ知らない、究極の入浴法をご案内します!」

「究極?大きく出たわね」

魔王さまは疑り深そうだが、「美肌」というワードにピクリと反応した。
俺はここぞとばかりに畳みかける。

「騙されたと思って!もし効果がなかったら、俺をカエルにでも何にでも変えてください!」
「わかったわ。案内しなさい」

◆◆◆

数十分後。

サウナ小屋の前のベンチで、魔王さまは真っ白なバスタオルにくるまり、呆然と空を見上げていた。

目はうつろで、口元は半開き。
全身から湯気が立ち上り、肌は茹で上がったカニのようにほんのり赤い。

「…なに、これ…」
「いかがですか、魔王さま」

俺がおそるおそる水を差し出すと、魔王さまは震える手で受け取り、一気に飲み干した。

「熱い蒸気で限界まで汗をかいて…その直後に、氷のような冷水に飛び込むなんて…正気の沙汰じゃないと思ったけど…」

魔王さまは深く、深ぁ~く息を吐き出した。

「世界が…回ってる…。私の悩みとか…部下の反乱とか…勇者のこととか…どうでもよくなる…」

「それが『トトノウ』という現象です」

「トトノウ…。これが…」

魔王さまは恍惚の表情で、森の木々を見つめている。
完全にトリップしていた。
サウナと水風呂の温冷交代浴。現代日本が生んだ合法ドラッグとも言える快楽に、異界の王は見事にハマったようだ。

「気に入ったわ…。これ、毎日入りたい…」
「ありがとうございます!!」

俺は心の底からガッツポーズをした。
勝った!これで中のヴァルシアと鉢合わせすることはない!
魔王さまはサウナ、勇者とヴァルシアは温泉。
完全に動線を分けることに成功したんだ!

俺はこの時、天才的な閃きを得ていた。

(そうだ…この調子でサービスを増やせばいいんだ!卓球場を作れば誰かが遊んでる間に風呂を回せるし、カラオケを作れば個室に隔離できる!施設を拡張すればするほど、客同士を会わせずに済む!)

俺の脳裏に、巨大温泉テーマパークへと進化した《ゆのや》のビジョンが浮かぶ。
これなら平和に経営できる!俺の平穏なスローライフは守られるんだ!

「ふふふ…忙しくなるぞ…」

俺は不敵に笑った。
だが、俺は忘れていたのだ。
施設を増やすということは、管理する場所が増えるということ。
そして、人手は俺とポンコツ女神の二人きりだということを。

「店長~、ヴァルシアちゃんが『背中流してくれ』って呼んでますよ~」
「魔王さまが『もう一回サウナ入るから薪をくべろ』って言ってます!」

右から左から飛んでくるタスク。
俺は気づいてしまった。
これ…社畜時代より労働環境が悪化してないか?
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Zelt Zelt
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