社畜だった俺が異世界で温泉宿を始めたら、なぜか女神と魔王が常連客になりました。
制作者:
Zelt
ラノベ風
小説設定:
|
連続投稿: 可
|
投稿権限:
全員
概要
■登場人物
・主人公(元社畜)平穏な第二の人生を送りたいが、なぜかトラブル体質
・ユノ(女神)金髪・白いワンピース・背中に小さな羽。儚げな微笑みが印象的。実はかなりの自由人で、細かいことは全部人任せ。
・魔王(魔王さま)漆黒のローブ・美しい容貌・角が生えている。強大な魔族の王だが、部下が不甲斐なくて常に疲れてる。意外と庶民的。
・勇者 魔王を倒すために旅に出てる勇者。成長途上で魔王四天王に苦戦してる。この度《ゆのや》の常連となる
勇者が湯殿に消えてから、まだ五分も経ってない。
なのに。
なのに!
玄関のほうから、聞きたくなかった「あの声」がした。
「ふぅ……今日も肩が痛いわ。癒されに来たのだけれど——入ってもいいかしら?」
「来たぁぁぁぁぁ!!」
俺は思わず床の上でのたうち回りそうになった。
魔王。よりによって今日。
よりによって、勇者が湯に浸かってる今日!!!!
(終わった……《ゆのや》、今日で爆散する……!)
玄関を見ると、漆黒のローブがゆらりと揺れる。
魔王さまは完全に常連の顔で、靴を脱ぎ始めている。
「ちょ、ちょっと待ってください魔王さま!!
き、今日は……その……臨時休湯で!」
「え? なんでよ?」
魔王さまが美しい眉をひそめる。心なしか大気の温度が下がった気がする。
(やべぇ、機嫌悪くなってる。機嫌悪くすると城ひっくり返すタイプだコレ)
「いや、その……湯が……爆発しそうで……」
「爆発? 温泉が?」
「……はい……」
苦しい。あまりにも苦しい嘘だ。
でも仕方がない! 湯殿には勇者がいるんだ!
魔王が湯に向かったら、絶対鉢合わせする。
鉢合わせしたら、戦争だ。
戦争になったら、俺の宿が消し飛ぶ!!
「へぇ……爆発ねぇ……」
魔王さまは腕を組んで、ジロッと俺を見た。
「……あなた、何か隠してない?」
「な、なにも!」
「ふぅん……」
魔王さまが一歩、宿の中へ踏み出した。
そのとき——
「店長ーっ!
湯の温度、完璧に仕上がりましたよー!」
奥からユノが、ご機嫌に走ってきた。
やめろ!!!
その完璧なお湯の宣言は今だけはダメだ!!!!
「ちょ、ユノ! 今は——」
「あれ? 魔王さんもいらしてるんですか? ちょうどいいタイミングですよ!
今日は特に癒し成分MAXですから!」
「あら、そうなの?」
「(オイィィィィィィ!!)」
俺はもう土下座しそうな勢いで、ユノを睨んだ。
でもユノはにこにこと手を打ち鳴らす。
「ささ! 魔王さん! どうぞどうぞ!」
魔王さまはローブをひらりと翻し、湯殿へ向かおうとする。
(終わった……! 勇者と魔王が同じ湯に……!)
俺は震える指で、最後の手段をとった。
「ま、魔王さまぁぁぁ!!!!」
「なによ、その声は」
「せっかくのご来店ですが……今日は!!
スペシャルマッサージが無料となっております!!」
「……スペシャルマッサージ?」
魔王さまはピタッと止まる。
「ええ、はい! 普通のマッサージの10倍の効果で!肩こりに……すごく、効きます!!
湯よりも! すさまじく!」
「そんなに?」
(頼む……釣られてくれーー!)
「……じゃあ、受けるわ」
(助かったぁぁぁぁ!!)
俺は心の中でガッツポーズした。
ユノはぽかんとしているが関係ない。
「では! こちらの——湯殿とは完全に別の部屋へ!」
「別って……ずいぶん必死ね?」
「ちちち違います!! 気のせいです!!」
◆◆◆
一方そのころ。
湯殿では。
「ふぅ……この湯……すごい……。まるで天国みたいだ……」
勇者は完全にリラックスしていた。
命の危機を感じるほどの快楽に包まれ、目を細めて湯に浸かる。
(まさか二分後に魔王が来てたなんて、このとき彼は知らない——)
◆◆◆
そしてロビーでは。
「店長……あなた、必死すぎでは?」
「うるさい! ユノが余計なことするからだろ!!」
「えぇぇ……私、良いことしたはずなんですけど……」
「良いことじゃねぇ!!!
勇者と魔王が同じ日、同じ時間に来るなんて聞いてねぇよ!!」
「えへへ……偶然ってすごいですね♪」
「笑うな!!!!!」
俺は頭を抱えた。
でも魔王はマッサージで引き留めた。
勇者は湯に浸かってる。
今のところは……ギリギリセーフだ。
「……で、店長」
ユノが俺の耳元でひそひそ言った。
「勇者さん……『また来たい』って言ってましたよ?」
「は?」
「『ここ、常連になりたいな』って」
「…………」
「良かったですね、店長。お客さんが増えますよ♪」
「増えていい客と、増えちゃダメな客がいるんだよ!!!!」
俺の悲鳴は今日も、湯けむりに吸い込まれていった——。
なのに。
なのに!
玄関のほうから、聞きたくなかった「あの声」がした。
「ふぅ……今日も肩が痛いわ。癒されに来たのだけれど——入ってもいいかしら?」
「来たぁぁぁぁぁ!!」
俺は思わず床の上でのたうち回りそうになった。
魔王。よりによって今日。
よりによって、勇者が湯に浸かってる今日!!!!
(終わった……《ゆのや》、今日で爆散する……!)
玄関を見ると、漆黒のローブがゆらりと揺れる。
魔王さまは完全に常連の顔で、靴を脱ぎ始めている。
「ちょ、ちょっと待ってください魔王さま!!
き、今日は……その……臨時休湯で!」
「え? なんでよ?」
魔王さまが美しい眉をひそめる。心なしか大気の温度が下がった気がする。
(やべぇ、機嫌悪くなってる。機嫌悪くすると城ひっくり返すタイプだコレ)
「いや、その……湯が……爆発しそうで……」
「爆発? 温泉が?」
「……はい……」
苦しい。あまりにも苦しい嘘だ。
でも仕方がない! 湯殿には勇者がいるんだ!
魔王が湯に向かったら、絶対鉢合わせする。
鉢合わせしたら、戦争だ。
戦争になったら、俺の宿が消し飛ぶ!!
「へぇ……爆発ねぇ……」
魔王さまは腕を組んで、ジロッと俺を見た。
「……あなた、何か隠してない?」
「な、なにも!」
「ふぅん……」
魔王さまが一歩、宿の中へ踏み出した。
そのとき——
「店長ーっ!
湯の温度、完璧に仕上がりましたよー!」
奥からユノが、ご機嫌に走ってきた。
やめろ!!!
その完璧なお湯の宣言は今だけはダメだ!!!!
「ちょ、ユノ! 今は——」
「あれ? 魔王さんもいらしてるんですか? ちょうどいいタイミングですよ!
今日は特に癒し成分MAXですから!」
「あら、そうなの?」
「(オイィィィィィィ!!)」
俺はもう土下座しそうな勢いで、ユノを睨んだ。
でもユノはにこにこと手を打ち鳴らす。
「ささ! 魔王さん! どうぞどうぞ!」
魔王さまはローブをひらりと翻し、湯殿へ向かおうとする。
(終わった……! 勇者と魔王が同じ湯に……!)
俺は震える指で、最後の手段をとった。
「ま、魔王さまぁぁぁ!!!!」
「なによ、その声は」
「せっかくのご来店ですが……今日は!!
スペシャルマッサージが無料となっております!!」
「……スペシャルマッサージ?」
魔王さまはピタッと止まる。
「ええ、はい! 普通のマッサージの10倍の効果で!肩こりに……すごく、効きます!!
湯よりも! すさまじく!」
「そんなに?」
(頼む……釣られてくれーー!)
「……じゃあ、受けるわ」
(助かったぁぁぁぁ!!)
俺は心の中でガッツポーズした。
ユノはぽかんとしているが関係ない。
「では! こちらの——湯殿とは完全に別の部屋へ!」
「別って……ずいぶん必死ね?」
「ちちち違います!! 気のせいです!!」
◆◆◆
一方そのころ。
湯殿では。
「ふぅ……この湯……すごい……。まるで天国みたいだ……」
勇者は完全にリラックスしていた。
命の危機を感じるほどの快楽に包まれ、目を細めて湯に浸かる。
(まさか二分後に魔王が来てたなんて、このとき彼は知らない——)
◆◆◆
そしてロビーでは。
「店長……あなた、必死すぎでは?」
「うるさい! ユノが余計なことするからだろ!!」
「えぇぇ……私、良いことしたはずなんですけど……」
「良いことじゃねぇ!!!
勇者と魔王が同じ日、同じ時間に来るなんて聞いてねぇよ!!」
「えへへ……偶然ってすごいですね♪」
「笑うな!!!!!」
俺は頭を抱えた。
でも魔王はマッサージで引き留めた。
勇者は湯に浸かってる。
今のところは……ギリギリセーフだ。
「……で、店長」
ユノが俺の耳元でひそひそ言った。
「勇者さん……『また来たい』って言ってましたよ?」
「は?」
「『ここ、常連になりたいな』って」
「…………」
「良かったですね、店長。お客さんが増えますよ♪」
「増えていい客と、増えちゃダメな客がいるんだよ!!!!」
俺の悲鳴は今日も、湯けむりに吸い込まれていった——。
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