社畜だった俺が異世界で温泉宿を始めたら、なぜか女神と魔王が常連客になりました。

制作者: Zelt ラノベ風
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第4話 魔王様ご来店(絶対来ると思ったよ!)
Zelt
2025年11月14日 12:54
勇者が湯殿に消えてから、まだ五分も経ってない。

なのに。
なのに!

玄関のほうから、聞きたくなかった「あの声」がした。

「ふぅ……今日も肩が痛いわ。癒されに来たのだけれど——入ってもいいかしら?」

「来たぁぁぁぁぁ!!」

俺は思わず床の上でのたうち回りそうになった。

魔王。よりによって今日。
よりによって、勇者が湯に浸かってる今日!!!!

(終わった……《ゆのや》、今日で爆散する……!)

玄関を見ると、漆黒のローブがゆらりと揺れる。
魔王さまは完全に常連の顔で、靴を脱ぎ始めている。

「ちょ、ちょっと待ってください魔王さま!!
き、今日は……その……臨時休湯で!」

「え? なんでよ?」

魔王さまが美しい眉をひそめる。心なしか大気の温度が下がった気がする。

(やべぇ、機嫌悪くなってる。機嫌悪くすると城ひっくり返すタイプだコレ)

「いや、その……湯が……爆発しそうで……」

「爆発? 温泉が?」

「……はい……」

苦しい。あまりにも苦しい嘘だ。
でも仕方がない! 湯殿には勇者がいるんだ!

魔王が湯に向かったら、絶対鉢合わせする。
鉢合わせしたら、戦争だ。
戦争になったら、俺の宿が消し飛ぶ!!

「へぇ……爆発ねぇ……」

魔王さまは腕を組んで、ジロッと俺を見た。

「……あなた、何か隠してない?」

「な、なにも!」

「ふぅん……」

魔王さまが一歩、宿の中へ踏み出した。

そのとき——

「店長ーっ!
湯の温度、完璧に仕上がりましたよー!」

奥からユノが、ご機嫌に走ってきた。

やめろ!!!
その完璧なお湯の宣言は今だけはダメだ!!!!

「ちょ、ユノ! 今は——」

「あれ? 魔王さんもいらしてるんですか? ちょうどいいタイミングですよ!
今日は特に癒し成分MAXですから!」

「あら、そうなの?」

「(オイィィィィィィ!!)」

俺はもう土下座しそうな勢いで、ユノを睨んだ。
でもユノはにこにこと手を打ち鳴らす。

「ささ! 魔王さん! どうぞどうぞ!」

魔王さまはローブをひらりと翻し、湯殿へ向かおうとする。

(終わった……! 勇者と魔王が同じ湯に……!)

俺は震える指で、最後の手段をとった。

「ま、魔王さまぁぁぁ!!!!」

「なによ、その声は」

「せっかくのご来店ですが……今日は!!
スペシャルマッサージが無料となっております!!」

「……スペシャルマッサージ?」

魔王さまはピタッと止まる。

「ええ、はい! 普通のマッサージの10倍の効果で!肩こりに……すごく、効きます!!
湯よりも! すさまじく!」

「そんなに?」

(頼む……釣られてくれーー!)

「……じゃあ、受けるわ」

(助かったぁぁぁぁ!!)

俺は心の中でガッツポーズした。
ユノはぽかんとしているが関係ない。

「では! こちらの——湯殿とは完全に別の部屋へ!」

「別って……ずいぶん必死ね?」

「ちちち違います!! 気のせいです!!」

◆◆◆

一方そのころ。
湯殿では。

「ふぅ……この湯……すごい……。まるで天国みたいだ……」

勇者は完全にリラックスしていた。
命の危機を感じるほどの快楽に包まれ、目を細めて湯に浸かる。

(まさか二分後に魔王が来てたなんて、このとき彼は知らない——)

◆◆◆

そしてロビーでは。

「店長……あなた、必死すぎでは?」

「うるさい! ユノが余計なことするからだろ!!」

「えぇぇ……私、良いことしたはずなんですけど……」

「良いことじゃねぇ!!!
勇者と魔王が同じ日、同じ時間に来るなんて聞いてねぇよ!!」

「えへへ……偶然ってすごいですね♪」

「笑うな!!!!!」

俺は頭を抱えた。
でも魔王はマッサージで引き留めた。
勇者は湯に浸かってる。
今のところは……ギリギリセーフだ。

「……で、店長」

ユノが俺の耳元でひそひそ言った。

「勇者さん……『また来たい』って言ってましたよ?」

「は?」

「『ここ、常連になりたいな』って」

「…………」

「良かったですね、店長。お客さんが増えますよ♪」

「増えていい客と、増えちゃダメな客がいるんだよ!!!!」

俺の悲鳴は今日も、湯けむりに吸い込まれていった——。
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