読み込み中...

朝霧 遥の湯けむり事件簿

制作者: あさり
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第9話 まさかの自爆!?
あさり
2025年12月23日 16:37 | 75
「……話してもらおうか」

中津川警部の低い声が響く。
足を引きずっている彼は、真っ青な顔でガタガタと震えていた。
まるで捨てられた子犬みたい。ちょっとかわいそうかも。

「お、俺……田中カケルっていいます。被害者の……甥です」

「甥だと?」
警部が眉をひそめる。

「はい。あのおっさん……叔父貴に、金を貸してたんです。5万円」

ご、5万円……。
殺人事件の動機にしては、ちょっと金額が、庶民的すぎない?
今回の私の旅費のほうが高いかもしれない。

「昨日の夜、どうしても金が必要になって……部屋に行ったんです。そしたら……」

カケル君はそこで言葉を詰まらせて、なぜかチラッと私を見た。
え、なに? 私?

「そしたら、叔父貴が……その、女物のハンカチを顔に押し当てて、スーハーしてたんです!!」

「「はあああ!?」」

私と陽香さんの声が、本日四度目のハモり。
え、待って。スーハーって何?

「すっごいニヤニヤして、『たまらん……このウサギの刺繍の手触り……最高だ……』って呟いてて。
俺、それ見たらなんかもう、気持ち悪いっていうか、情けないっていうか……」

うわぁ……。
私のハンカチ、そんな扱い受けてたの?
冤罪の恐怖よりも、別の意味で鳥肌が立ってきた。

「で、俺、思わず大声で叫んじゃったんです。『金返せよこの変態ーーっ!』って」

「そしたら?」
警部が身を乗り出す。

「そしたら叔父貴、ビクゥーーッ!ってなって。白目むいて、『うっ!』って胸押さえて……そのままバタリと倒れて……動かなくなっちゃって」

シーン…………

食堂中が静まり返る。カニを食べる音すらしない。

「お、俺、怖くなって! 殺したと思われたくなくて、慌てて逃げ出したんです! その時、慌てすぎて足をひねって……」

カケル君は泣きそうになりながら訴えた。

「俺、指一本触れてません! 叔父貴は……勝手にビックリして、勝手に死んだんです!!」

嘘でしょ……?
そんなのアリ?

中津川警部が、あいた口がふさがらないという顔で、懐から手帳を取り出した。

「……そういえば、鑑識の報告に『死因は急性心不全の可能性あり』とあったな。外傷も少なかったし、争った形跡というよりは、単に倒れただけに見えなくも……」

警部はカクッと膝から崩れ落ちそうな勢いで溜息をついた。

「つまり、なんだ。事件の真相は……ハンカチの感触を楽しんでいた変態が、甥っ子に怒鳴られて、ビックリして心臓が止まった……事故死、ということか?」

「そ、そんなぁ〜〜!!」

私は思わずテーブルに突っ伏した。
何それ! 何そのオチ!
私の昨日の恐怖を返してよ!
っていうか、あのおばあちゃん(桐谷さん)のアリバイ証言とか、もう一人の私(陽香さん)の登場とか、全然関係なかったじゃん!

「……ふっ」

隣で、陽香さんがメガネをクイッと直しながら笑った。

「カニの殻が、真実を暴いたってわけですね」

「うまいこと言ってる場合ですか!」

私はツッコんだけど、全身の力が抜けていくのがわかった。
よかった。
本当によかった。
私、犯人じゃなかったんだ……!

「……人騒がせな」

小此木さんが、呆れたように呟いて、最後の一本のカニ脚を口に放り込んだ。

中津川警部は、なんだかすごく疲れた顔で、カケル君の肩に手を置いた。

「まあ……事情聴取は必要だが、殺人ではないなら情状酌量の余地はあるだろう。署で詳しく聞くからな」

「は、はい……すみませんでしたぁ……」

カケル君がへなへなと座り込む。

こうして、湯煙殺人事件……改め、湯煙変態ショック死事件は、あまりにもあっけなく、そして情けない形で幕を閉じたのだった。

さあ、あとはこの美味しいカニを食べて、ゆっくり温泉に入って寝るだけ!
……だよね?
この小説をシェア
このパートからの分岐 (1)
事件解決!……ってことでいいよね?

「「「かんぱーーーーい!!」」」 食堂に、私たちの元気な声が響き渡る。 グラスに入っているのは、シ...

あさり あさり
01/05 13:36
全階層の表示(10件)
第1話 犯人はわたし? あさり 0 66
・「犯人はお前だ!」 私(|朝霧 遥《あさぎり はるか》)を含めこの温泉宿に泊まっ...
第2話 私じゃないよ? あさり 1 71
・「わかってる。全部分かってるんだ」 何が、何がわかってるって言うんですか!?...
第3話 私のアリバイ? 蒼月(そうげつ) 0 72
・「おい!どこを見とる!」 はっ、可愛いという言葉に反応してしまった。それどころ...
第4話 えっと、その……誰? あさり 1 72
・「え?」 私は思わず声が出た。 「え?」って、もう今日何回言っただろう。でも仕...
第5話 スポットライトは誰に? Zelt 0 72
・シーン、と大広間が静まり返った。 まるで舞台の幕が上がったみたいに、全員の視線が...
第6話 カニは正義! レュー 0 63
・「貴様ら、グルか!!」 中津川警部の怒鳴り声が、温泉宿の大広間に響き渡る。...
第7話 飛んでけ!カニの殻! あさり 1 74
・「「いただきまーす!!」」 私(朝霧 遥)と陽香さんの声が、またまたハモった!...
第8話 証言は踊る Zelt 0 73
・中津川警部の箸が、カニの身を挟んだまま、空中で停止した。 「……なんだと?」...
第9話 まさかの自爆!? あさり 0 76
・「……話してもらおうか」 中津川警部の低い声が響く。 足を引きずっている彼は、真...
NEW 第10話 事件解決!……ってことでいいよね? あさり 0 15
・「「「かんぱーーーーい!!」」」 食堂に、私たちの元気な声が響き渡る。 グラス...
コメント
コメントを投稿するにはログインしてください。

ユーザー登録でみんつぐをもっと楽しもう!

お気に入りの小説の更新通知が届く

フォローした作家の新作をすぐに確認

好きな作品にいいね・コメント

感動を作者に直接届けられる

マイページで投稿を管理

自分の作品やいいねを一覧で確認

小説を書いてリレーに参加

新作を始めたり続きを自由に書ける

気になる作家をフォロー

好きな作家の新作をすぐチェック

分岐ツリーで展開を可視化

ストーリーの分岐を一目で確認

他にもみんつぐを楽しく便利に使う機能が充実!

無料で新規登録

すでにアカウントをお持ちの方は