「……話してもらおうか」
中津川警部の低い声が響く。
足を引きずっている彼は、真っ青な顔でガタガタと震えていた。
まるで捨てられた子犬みたい。ちょっとかわいそうかも。
「お、俺……田中カケルっていいます。被害者の……甥です」
「甥だと?」
警部が眉をひそめる。
「はい。あのおっさん……叔父貴に、金を貸してたんです。5万円」
ご、5万円……。
殺人事件の動機にしては、ちょっと金額が、庶民的すぎない?
今回の私の旅費のほうが高いかもしれない。
「昨日の夜、どうしても金が必要になって……部屋に行ったんです。そしたら……」
カケル君はそこで言葉を詰まらせて、なぜかチラッと私を見た。
え、なに? 私?
「そしたら、叔父貴が……その、女物のハンカチを顔に押し当てて、スーハーしてたんです!!」
「「はあああ!?」」
私と陽香さんの声が、本日四度目のハモり。
え、待って。スーハーって何?
「すっごいニヤニヤして、『たまらん……このウサギの刺繍の手触り……最高だ……』って呟いてて。
俺、それ見たらなんかもう、気持ち悪いっていうか、情けないっていうか……」
うわぁ……。
私のハンカチ、そんな扱い受けてたの?
冤罪の恐怖よりも、別の意味で鳥肌が立ってきた。
「で、俺、思わず大声で叫んじゃったんです。『金返せよこの変態ーーっ!』って」
「そしたら?」
警部が身を乗り出す。
「そしたら叔父貴、ビクゥーーッ!ってなって。白目むいて、『うっ!』って胸押さえて……そのままバタリと倒れて……動かなくなっちゃって」
シーン…………
食堂中が静まり返る。カニを食べる音すらしない。
「お、俺、怖くなって! 殺したと思われたくなくて、慌てて逃げ出したんです! その時、慌てすぎて足をひねって……」
カケル君は泣きそうになりながら訴えた。
「俺、指一本触れてません! 叔父貴は……勝手にビックリして、勝手に死んだんです!!」
嘘でしょ……?
そんなのアリ?
中津川警部が、あいた口がふさがらないという顔で、懐から手帳を取り出した。
「……そういえば、鑑識の報告に『死因は急性心不全の可能性あり』とあったな。外傷も少なかったし、争った形跡というよりは、単に倒れただけに見えなくも……」
警部はカクッと膝から崩れ落ちそうな勢いで溜息をついた。
「つまり、なんだ。事件の真相は……ハンカチの感触を楽しんでいた変態が、甥っ子に怒鳴られて、ビックリして心臓が止まった……事故死、ということか?」
「そ、そんなぁ〜〜!!」
私は思わずテーブルに突っ伏した。
何それ! 何そのオチ!
私の昨日の恐怖を返してよ!
っていうか、あのおばあちゃん(桐谷さん)のアリバイ証言とか、もう一人の私(陽香さん)の登場とか、全然関係なかったじゃん!
「……ふっ」
隣で、陽香さんがメガネをクイッと直しながら笑った。
「カニの殻が、真実を暴いたってわけですね」
「うまいこと言ってる場合ですか!」
私はツッコんだけど、全身の力が抜けていくのがわかった。
よかった。
本当によかった。
私、犯人じゃなかったんだ……!
「……人騒がせな」
小此木さんが、呆れたように呟いて、最後の一本のカニ脚を口に放り込んだ。
中津川警部は、なんだかすごく疲れた顔で、カケル君の肩に手を置いた。
「まあ……事情聴取は必要だが、殺人ではないなら情状酌量の余地はあるだろう。署で詳しく聞くからな」
「は、はい……すみませんでしたぁ……」
カケル君がへなへなと座り込む。
こうして、湯煙殺人事件……改め、湯煙変態ショック死事件は、あまりにもあっけなく、そして情けない形で幕を閉じたのだった。
さあ、あとはこの美味しいカニを食べて、ゆっくり温泉に入って寝るだけ!
……だよね?
中津川警部の低い声が響く。
足を引きずっている彼は、真っ青な顔でガタガタと震えていた。
まるで捨てられた子犬みたい。ちょっとかわいそうかも。
「お、俺……田中カケルっていいます。被害者の……甥です」
「甥だと?」
警部が眉をひそめる。
「はい。あのおっさん……叔父貴に、金を貸してたんです。5万円」
ご、5万円……。
殺人事件の動機にしては、ちょっと金額が、庶民的すぎない?
今回の私の旅費のほうが高いかもしれない。
「昨日の夜、どうしても金が必要になって……部屋に行ったんです。そしたら……」
カケル君はそこで言葉を詰まらせて、なぜかチラッと私を見た。
え、なに? 私?
「そしたら、叔父貴が……その、女物のハンカチを顔に押し当てて、スーハーしてたんです!!」
「「はあああ!?」」
私と陽香さんの声が、本日四度目のハモり。
え、待って。スーハーって何?
「すっごいニヤニヤして、『たまらん……このウサギの刺繍の手触り……最高だ……』って呟いてて。
俺、それ見たらなんかもう、気持ち悪いっていうか、情けないっていうか……」
うわぁ……。
私のハンカチ、そんな扱い受けてたの?
冤罪の恐怖よりも、別の意味で鳥肌が立ってきた。
「で、俺、思わず大声で叫んじゃったんです。『金返せよこの変態ーーっ!』って」
「そしたら?」
警部が身を乗り出す。
「そしたら叔父貴、ビクゥーーッ!ってなって。白目むいて、『うっ!』って胸押さえて……そのままバタリと倒れて……動かなくなっちゃって」
シーン…………
食堂中が静まり返る。カニを食べる音すらしない。
「お、俺、怖くなって! 殺したと思われたくなくて、慌てて逃げ出したんです! その時、慌てすぎて足をひねって……」
カケル君は泣きそうになりながら訴えた。
「俺、指一本触れてません! 叔父貴は……勝手にビックリして、勝手に死んだんです!!」
嘘でしょ……?
そんなのアリ?
中津川警部が、あいた口がふさがらないという顔で、懐から手帳を取り出した。
「……そういえば、鑑識の報告に『死因は急性心不全の可能性あり』とあったな。外傷も少なかったし、争った形跡というよりは、単に倒れただけに見えなくも……」
警部はカクッと膝から崩れ落ちそうな勢いで溜息をついた。
「つまり、なんだ。事件の真相は……ハンカチの感触を楽しんでいた変態が、甥っ子に怒鳴られて、ビックリして心臓が止まった……事故死、ということか?」
「そ、そんなぁ〜〜!!」
私は思わずテーブルに突っ伏した。
何それ! 何そのオチ!
私の昨日の恐怖を返してよ!
っていうか、あのおばあちゃん(桐谷さん)のアリバイ証言とか、もう一人の私(陽香さん)の登場とか、全然関係なかったじゃん!
「……ふっ」
隣で、陽香さんがメガネをクイッと直しながら笑った。
「カニの殻が、真実を暴いたってわけですね」
「うまいこと言ってる場合ですか!」
私はツッコんだけど、全身の力が抜けていくのがわかった。
よかった。
本当によかった。
私、犯人じゃなかったんだ……!
「……人騒がせな」
小此木さんが、呆れたように呟いて、最後の一本のカニ脚を口に放り込んだ。
中津川警部は、なんだかすごく疲れた顔で、カケル君の肩に手を置いた。
「まあ……事情聴取は必要だが、殺人ではないなら情状酌量の余地はあるだろう。署で詳しく聞くからな」
「は、はい……すみませんでしたぁ……」
カケル君がへなへなと座り込む。
こうして、湯煙殺人事件……改め、湯煙変態ショック死事件は、あまりにもあっけなく、そして情けない形で幕を閉じたのだった。
さあ、あとはこの美味しいカニを食べて、ゆっくり温泉に入って寝るだけ!
……だよね?
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