その時、〇〇がこう言った
制作者:
さんぽ
小説設定:
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連続投稿: 可
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投稿権限:
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概要
ジャンルも何もかも自由ですが、その話の最後は「その時、〇〇(人物名)はこう言った」で締め、ぶっ飛んだ言葉で次話を始めてみたいです。
「俺の……俺の最終回?……そんなの、わかんねぇよ」
霧島は、その言葉を口の中で転がすように繰り返した。
考えたこともなかった。
プログラマーとして働いていた頃は、毎日が締め切りとバグとの戦いで、五年後のことすら考える余裕がなかった。会社を辞めてからは、もっとひどい。明日の食費と、溜まっていく請求書のことで頭がいっぱいで、「人生の最終回」なんて大層なものを想像する暇もなかった。
「……わかんねぇよ」
声が、思ったより小さく出た。
マヤは何も言わなかった。
ただ静かに、ノートを膝の上に置いたまま、霧島の言葉を待っている。
その沈黙が、なぜか心地よかった。
責められているわけでも、急かされているわけでもない。ただ、そこにいてくれる。それだけのことが、こんなにも温かいなんて。
「俺さ」
霧島は、自販機に背中を預けた。冷たい金属の感触が、妙に現実味を与えてくれる。
「38年、生きてきて、何か残したかって言われたら、何もねぇんだよ」
マヤが小さく首を傾げる。
「本当に?」
「本当だよ。結婚もしてない、子供もいない、仕事も続かなかった。親には心配かけっぱなしで、友達とも疎遠になって……」
言葉にすると、余計にみじめだった。
世界が終わる瞬間に、こんな情けない独白をしている自分が滑稽で、霧島は乾いた笑いを漏らした。
「でもね」
マヤの声は、相変わらず穏やかだった。
「私、さっきあなたの叫び声を聞いて、ちょっとだけ元気が出たの」
「……は?」
「だって、世界が終わるっていうのに、漫画の最終回が気になるなんて。すごく人間らしいなって思って」
マヤは、左足の傷を気にする様子もなく、ふわりと笑った。
「物語を愛せる人は、きっと誰かの物語も愛せるのよ」
霧島は、何か言おうとして、言葉が出なかった。
胸の奥で、何かが小さく震えている。
概念の波が、すぐそこまで来ていた。
もう時間がない。
霧島は缶コーヒーの最後の一口を飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。
「……なあ、そのノート、俺にも貸してくれないか」
マヤが目を丸くする。
「書きたいことでも?」
「いや、書けるかわかんねぇけど」
霧島は、生まれて初めて、自分の言葉で何かを残したいと思った。
誰かに届かなくてもいい。世界が終わっても、この一瞬だけは、確かにここにいたって証を。
マヤはノートとペンを差し出しながら、どこか嬉しそうに言った。
「じゃあ、一緒に書きましょう。最後の共作よ」
その時、遠くで猫が鳴いた。
あの、諦めの悪い猫だ。
二人が振り向くと、猫は瓦礫の上にちょこんと座り、じっとこちらを見ている。
その瞳は、まるで何かを訴えているようだった。
そして――その時、猫はこう言った。
霧島は、その言葉を口の中で転がすように繰り返した。
考えたこともなかった。
プログラマーとして働いていた頃は、毎日が締め切りとバグとの戦いで、五年後のことすら考える余裕がなかった。会社を辞めてからは、もっとひどい。明日の食費と、溜まっていく請求書のことで頭がいっぱいで、「人生の最終回」なんて大層なものを想像する暇もなかった。
「……わかんねぇよ」
声が、思ったより小さく出た。
マヤは何も言わなかった。
ただ静かに、ノートを膝の上に置いたまま、霧島の言葉を待っている。
その沈黙が、なぜか心地よかった。
責められているわけでも、急かされているわけでもない。ただ、そこにいてくれる。それだけのことが、こんなにも温かいなんて。
「俺さ」
霧島は、自販機に背中を預けた。冷たい金属の感触が、妙に現実味を与えてくれる。
「38年、生きてきて、何か残したかって言われたら、何もねぇんだよ」
マヤが小さく首を傾げる。
「本当に?」
「本当だよ。結婚もしてない、子供もいない、仕事も続かなかった。親には心配かけっぱなしで、友達とも疎遠になって……」
言葉にすると、余計にみじめだった。
世界が終わる瞬間に、こんな情けない独白をしている自分が滑稽で、霧島は乾いた笑いを漏らした。
「でもね」
マヤの声は、相変わらず穏やかだった。
「私、さっきあなたの叫び声を聞いて、ちょっとだけ元気が出たの」
「……は?」
「だって、世界が終わるっていうのに、漫画の最終回が気になるなんて。すごく人間らしいなって思って」
マヤは、左足の傷を気にする様子もなく、ふわりと笑った。
「物語を愛せる人は、きっと誰かの物語も愛せるのよ」
霧島は、何か言おうとして、言葉が出なかった。
胸の奥で、何かが小さく震えている。
概念の波が、すぐそこまで来ていた。
もう時間がない。
霧島は缶コーヒーの最後の一口を飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。
「……なあ、そのノート、俺にも貸してくれないか」
マヤが目を丸くする。
「書きたいことでも?」
「いや、書けるかわかんねぇけど」
霧島は、生まれて初めて、自分の言葉で何かを残したいと思った。
誰かに届かなくてもいい。世界が終わっても、この一瞬だけは、確かにここにいたって証を。
マヤはノートとペンを差し出しながら、どこか嬉しそうに言った。
「じゃあ、一緒に書きましょう。最後の共作よ」
その時、遠くで猫が鳴いた。
あの、諦めの悪い猫だ。
二人が振り向くと、猫は瓦礫の上にちょこんと座り、じっとこちらを見ている。
その瞳は、まるで何かを訴えているようだった。
そして――その時、猫はこう言った。
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