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その時、〇〇がこう言った

制作者: さんぽ
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第4話 最後に残るもの
クロマル
2025年12月26日 14:06 | 33
「俺の……俺の最終回?……そんなの、わかんねぇよ」

霧島は、その言葉を口の中で転がすように繰り返した。

考えたこともなかった。
プログラマーとして働いていた頃は、毎日が締め切りとバグとの戦いで、五年後のことすら考える余裕がなかった。会社を辞めてからは、もっとひどい。明日の食費と、溜まっていく請求書のことで頭がいっぱいで、「人生の最終回」なんて大層なものを想像する暇もなかった。

「……わかんねぇよ」

声が、思ったより小さく出た。

マヤは何も言わなかった。
ただ静かに、ノートを膝の上に置いたまま、霧島の言葉を待っている。

その沈黙が、なぜか心地よかった。
責められているわけでも、急かされているわけでもない。ただ、そこにいてくれる。それだけのことが、こんなにも温かいなんて。

「俺さ」
霧島は、自販機に背中を預けた。冷たい金属の感触が、妙に現実味を与えてくれる。
「38年、生きてきて、何か残したかって言われたら、何もねぇんだよ」

マヤが小さく首を傾げる。

「本当に?」

「本当だよ。結婚もしてない、子供もいない、仕事も続かなかった。親には心配かけっぱなしで、友達とも疎遠になって……」
言葉にすると、余計にみじめだった。
世界が終わる瞬間に、こんな情けない独白をしている自分が滑稽で、霧島は乾いた笑いを漏らした。

「でもね」

マヤの声は、相変わらず穏やかだった。

「私、さっきあなたの叫び声を聞いて、ちょっとだけ元気が出たの」

「……は?」

「だって、世界が終わるっていうのに、漫画の最終回が気になるなんて。すごく人間らしいなって思って」

マヤは、左足の傷を気にする様子もなく、ふわりと笑った。
「物語を愛せる人は、きっと誰かの物語も愛せるのよ」

霧島は、何か言おうとして、言葉が出なかった。
胸の奥で、何かが小さく震えている。

概念の波が、すぐそこまで来ていた。
もう時間がない。

霧島は缶コーヒーの最後の一口を飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。

「……なあ、そのノート、俺にも貸してくれないか」

マヤが目を丸くする。
「書きたいことでも?」
「いや、書けるかわかんねぇけど」

霧島は、生まれて初めて、自分の言葉で何かを残したいと思った。
誰かに届かなくてもいい。世界が終わっても、この一瞬だけは、確かにここにいたって証を。

マヤはノートとペンを差し出しながら、どこか嬉しそうに言った。
「じゃあ、一緒に書きましょう。最後の共作よ」

その時、遠くで猫が鳴いた。
あの、諦めの悪い猫だ。

二人が振り向くと、猫は瓦礫の上にちょこんと座り、じっとこちらを見ている。
その瞳は、まるで何かを訴えているようだった。

そして――その時、猫はこう言った。
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このパートからの分岐 (2)
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全階層の表示(11件)
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第4話 最後に残るもの クロマル 0 34
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