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その時、〇〇がこう言った

制作者: さんぽ
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員

概要

第9話 伏線は、あなた自身
蒼月(そうげつ)
2026年01月06日 22:31 | 17
「――あるわよ、伏線」

マヤは静かに微笑んだ。その笑顔には、長年本を読み続けてきた人間だけが持つ、物語への確信があった。

「どこにだよ」

霧島が周囲を見回す。崩れかけた街並み、再起動の光に包まれていく空、スマホを構える女子高生、そして足元でため息をつく猫。どこにも伏線らしきものは見当たらない。

「ここよ」
マヤは、自分の胸に手を当てた。

「物語の伏線って、最初から用意されてるものじゃないの。登場人物が生きていく中で、後から『あれが伏線だったんだ』って気づくものなのよ」

女子高生が目を丸くする。
「えっ、それってメタ的にはかなり危ない発言じゃ……」

「危なくないわ」
マヤの声は、どこまでも穏やかだった。

「だって、霧島さん。あなた、さっき自分の人生に何も残せなかったって言ったでしょう?」
霧島は黙った。
「でもね」

マヤは一歩、霧島に近づいた。引きずっていた左足が、いつの間にか普通に動いている。世界が書き換わっているのだ、とぼんやり思った。

「あなたの叫び声を聞いて、私は逃げるのをやめたの。あなたが『ONE PIECEの最終回を読みたい』って泣いてるのを見て、ああ、この人も物語を愛してるんだなって」

マヤの目が、少しだけ潤んでいた。
「それって、十分すぎるくらいの伏線じゃない?」

猫が、ふん、と鼻を鳴らした。
「なるほど。感情的接続による因果の再構築か。文学的だが、論理的にも筋は通る」

「ぜんぜん分かんないんですけど!」
女子高生がスマホを振り回す。
「要するに、二人が出会ったこと自体が伏線で、これから回収されるってことですか?」

「そうね」
マヤは頷いた。そして、霧島の顔をまっすぐに見つめた。
「霧島さん。世界が続くなら、あなたはこれからどう生きるの?」

霧島は、言葉に詰まった。
無職で、何も持っていなくて、三十八年間ずっと逃げ続けてきた自分に、これからなんてあるのだろうか。でも――
「……わかんねぇよ」

また同じ言葉が出た。でも、さっきとは違う響きがあった。
「わかんねぇけど」
霧島は、空を見上げた。朝焼けの光が、少しずつ街を照らし始めている。
「少なくとも、明日も本屋に行く理由はできた」

マヤが、ふふ、と笑った。

女子高生がスマホを構え直す。

「えっ、ちょっと待って、これ恋愛フラグですか? ジャンル変わってません?」

猫が深々とため息をついた。
「馬鹿者。これは恋愛ではない。人間が人間と繋がる瞬間を描いているだけだ。……まあ、区別がつかんのも無理はないが」

その時、空の光が一段と強くなった。
世界の再起動が、最終段階に入ろうとしている。

猫は霧島とマヤを交互に見て、静かに告げた。
「最後に、一つだけ選択がある」
「選択?」

「この世界は『未完』のまま続くことになった。だが、それは同時に、終わりが永遠に来ないということでもある。お前たちは、それでいいのか?」

霧島とマヤは顔を見合わせた。
答えは、もう決まっていた。

そして――その時、二人は同時にこう言った。
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このパートからの分岐 (1)
未完という名の続き

「「終わらせなくていい」」 二人の声が重なった。 猫が目を見開く。女子高生がスマホを取り落としそう...

ケンヂ ケンヂ
01/12 09:52
全階層の表示(11件)
第1話 世界が終わる三分前 さんぽ 0 55
・世界が終わる三分前、駅前の自販機だけが普通に稼働していた。 赤く光る「つめた〜い...
第2話 あれを見ずには終われない 蒼月(そうげつ) 0 44
・「ONE PIECEの最終回、読みたかったなぁぁぁぁ!!」 その声は、轟音を立てて崩れ...
第3話 確実に二次創作 さんぽ 0 37
・「大丈夫よ――世界が終わる前に、私が全部の最終回を書いてあげる。作者が死んでも、物...
第4話 最後に残るもの クロマル 0 34
・「俺の……俺の最終回?……そんなの、わかんねぇよ」 霧島は、その言葉を口の中で転が...
第5話 デバッグ作業は猫の手も借りたい ケンヂ 0 35
・「おい、そこの無職。貴様の人生、デバッグしてやろうか?」 猫は、鳴き声の代わり...
第6話 待て さんぽ 0 38
・「待て」 たった二文字。 だが、その瞬間。 世界が本気で困惑した。 空に走...
第7話 朝焼け クロマル 0 29
・「この物語の続きは、俺が死ぬまで『未完』のままだ!」 霧島が叫んだ言葉は、裂け...
第8話 考察勢 さんぽ 0 33
・「すみませーん! その未完宣言、さっきからトレンド一位なんですけど!!」 息を...
第9話 伏線は、あなた自身 蒼月(そうげつ) 0 18
・「――あるわよ、伏線」 マヤは静かに微笑んだ。その笑顔には、長年本を読み続けてき...
NEW 第10話 未完という名の続き ケンヂ 0 14
・「「終わらせなくていい」」 二人の声が重なった。 猫が目を見開く。女子高生がス...
第5話 猫の手を借りた さんぽ 0 28
・「……その原稿、まだ第一稿だろ。オチ弱いから書き直し」 世界が止まった。 霧島...
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