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童話異聞録「浦島太郎」

制作者: A5
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第7話 亀と漁師と男の意地
レュー
2025年12月06日 10:52 | 96
乙姫の部屋を出た俺は、重たいため息をついた。
(あんな綺麗な人が、あんな悲しい顔をするなんてな……)

地球環境とか、文明のリセットとか、正直俺にはスケールがデカすぎてよくわからん。
ただ、乙姫様が本気で悩んでることと、このままだと大変なことになるってことだけは痛いほどわかった。

とぼとぼと廊下を歩いていると、曲がり角の向こうから「ふんぬ、ふんぬ!」という妙な声が聞こえてきた。

なんだ?と思って覗いてみると、そこにはカメーリアがいた。
廊下のベンチの上で、ひっくり返ったまま手足をバタつかせている。

「……何やってんだ、お前」
俺が声をかけると、カメーリアはビクッとして動きを止めた。

「あ、見られた! い、いや、これは違うぞ! 腹筋のトレーニングじゃ! 決して、おやつを食べようとしてバランスを崩したわけではない!」
その横には、深海エビ味のスナック菓子の袋が落ちている。

「嘘つけ」
俺は苦笑いしながら、カメーリアを起こしてやった。

「ふん! 礼は言わんぞ。貴様が来るのが遅いからいけないのじゃ」
カメーリアは悪びれもせず、スナック菓子をバリボリと食べ始めた。

「それにしても、乙姫様の話は長かったであろう? あの御方は真面目すぎるからのう。たまにはわらわのように、こうして息抜きをすればよいのに」

口の周りに食べかすをつけたまま、偉そうに語るカメーリア。
その姿を見ていると、さっき乙姫様から聞いた「破壊の華」なんていう物騒な呼び名が、まるで悪い冗談のように思えてくる。

「なぁ、カメーリア」
「ん? なんじゃ、改まって。わらわの菓子はやらんぞ」
「お前、自分の仕事……その『隠密行動』とか『任務』とかのこと、どう思ってるんだ?」

俺が聞くと、カメーリアはきょとんとして、それからニカっと笑った。
「誇りに思っておるぞ! わらわは選ばれたエリートじゃからな! 乙姫様の役に立ち、この竜宮城を守る。それがわらわの使命じゃ!」

その言葉には、一点の曇りもなかった。
自分が兵器として使い潰されるかもしれないなんて、微塵も疑っていない。
ただ純粋に、主人の役に立ちたいと願っているだけだ。

(……馬鹿野郎が)

俺は奥歯をグッと噛み締めた。
こんな小さな亀一匹に、世界の命運だの、汚れた海の責任だのを背負わせていいわけがない。
それに、乙姫様だって本心じゃあんなことしたくないはずだ。

「……決めたぞ」
「あ? 何をじゃ?」
俺はカメーリアの頭を、乱暴にガシガシと撫で回した。

「うわっ、やめろ愚民! 気安くわらわの頭を触るな!」
「うるせえ。いいかカメーリア、よく聞け」

俺はスナック菓子の袋を取り上げて、カメーリアの目を真っ直ぐに見た。
「俺は漁師だ。海で生きてる。陸のことも海のことも、どっちも大好きだ」
「だから何なんじゃ、急に」
「だから、どっちかが滅びるとか、誰かが泣くとか、そういうのはナシだ。俺が何とかしてやる」

根拠なんてない。
どうすればいいかも、まだ思いつかない。

だけど、目の前のこのちんちくりんな亀と、あの部屋で泣いていた乙姫様の両方を救えないで、何が男だ。
何が浦島太郎だ。

「おい愚民、菓子を返せ! 話を聞いておるのか!」

騒ぐカメーリアを見下ろしながら、俺は腹を括った。
歴史小説の英雄みたいにはいかないかもしれないが、俺なりに足掻いてやろうじゃないか。
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このパートからの分岐 (1)
約束

「……本気ですか」 再び訪れた制御室で、乙姫は信じられないものを見るような目で俺を見ていた。 さっき...

クロマル クロマル
12/09 15:20
全階層の表示(15件)
第1話 助けた亀は… A5 0 121
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第2話 喋るミドリガメ、その名はカメーリア 蒼月(そうげつ) 1 82
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