童話異聞録「浦島太郎」
制作者:
A5
小説設定:
|
連続投稿: 可
|
投稿権限:
全員
|
完結数: 10話で完結
概要
「浦島太郎」のお話をベースに、違う結末にしていきたいと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
翌朝。
深海の朝は、ドームの天井がぼんやりと青白く光ることで始まった。
「むにゃ……もう食えん……ワカメはいらん……」
隣の枕元では、カメーリアがひっくり返って高いびきをかいている。あの小さな体のどこに、昨晩の大量のご馳走が消えたのか。
太郎は音を立てないように寝台を抜け出した。
(少し、歩いてみるか)
昨晩の宴は楽しかった。だが、太郎は覚えていた。ふとした瞬間に乙姫が見せた、あの凍りつくような寂しい瞳を。
この煌びやかな城には、何か裏がある。漁師の勘がそう告げていた。
廊下は静まり返っている。
壁そのものがぼんやりと光っており、松明もないのに明るい。
「やっぱり、ここは不思議なところだ」
太郎は首をかしげながら、奥へ奥へと進んだ。
突き当たりに、ガラス張りの大きな部屋があった。
中を覗き込んだ太郎は、息を呑んだ。
「な……なんだ、これは」
部屋の空中に、数え切れないほどの「絵」が浮かんでいるのだ。
紙もないのに、光が絵を描いている。
そこに映っていたのは、太郎の知る海ではなかった。
どす黒く濁った水。
腹を上に向け、浜に打ち上げられた大量の魚たち。
奇妙なゴミに絡まり、苦しむ海鳥。
「地獄絵図……か?」
太郎には、そこに書かれている文字や数字の意味はわからない。だが、これが「今の海」の姿であることだけは、肌で感じ取れた。
「……見てしまいましたか」
鈴を転がすような、しかしどこか儚げな声がした。
太郎が振り返ると、そこには乙姫が立っていた。
昨日のきっちりとした白衣姿ではない。薄衣を一枚羽織っただけの、髪を下ろした姿だ。その無防備な姿に、太郎は思わずドキリとして目を逸らした。
「乙姫様、これは……」
「地上の現実です。太郎さん」
乙姫は太郎の横に並び、悲しげな瞳で宙に浮く「絵」を見つめた。甘い香りが、太郎の鼻をくすぐる。
「人間たちが捨てた毒や、溶けないゴミ……それらが海を殺そうとしています。私たち竜宮の民は、このドームの中で怯えながら生きるしかないのです」
「人間が…俺たちが、海を殺す?」
太郎は自分の手を見た。魚を獲り、海に生かされてきた手だ。そんなつもりはなかった。だが、目の前の絵は、それが罪だと告げている。
「もう、限界なのです」
乙姫の声が震えた。彼女はそっと、壁の一点を指差した。
そこに映し出されたのは、スヤスヤと眠るカメーリアの映像だった。
「だから、私は『カメーリア』を用意しました」
「あいつが、どうかしたのか?」
「あの子はただの亀ではありません。……竜宮が保有する、対地上浄化兵器。コードネーム『破壊の華』です」
「へ……? へいき?」
乙姫は、美しい顔を苦痛に歪め、続けた。
「あの子が本気になれば、地上の文明をすべて破壊することも可能です。……文字通り、すべてを『リセット』するために」
太郎は言葉を失った。
あの、偉そうで、食いしん坊で、ちょっと抜けているミドリガメが?
海を渡ってきた時の、あの巨大な怪獣のような姿を思い出す。あれは、乗り物などではなかったのだ。
彼女は、すがるような、潤んだ瞳で太郎を見上げた。
「でも……私は、怖いのです」
「乙姫様?」
「地上の人間を滅ぼせば、海は助かる。理屈ではわかっています。でも、私は……本当は、誰も傷つけたくない。誰の命も奪いたくないのです」
乙姫の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その涙は、真珠のように美しく、そしてあまりにも悲痛だった。
深海の朝は、ドームの天井がぼんやりと青白く光ることで始まった。
「むにゃ……もう食えん……ワカメはいらん……」
隣の枕元では、カメーリアがひっくり返って高いびきをかいている。あの小さな体のどこに、昨晩の大量のご馳走が消えたのか。
太郎は音を立てないように寝台を抜け出した。
(少し、歩いてみるか)
昨晩の宴は楽しかった。だが、太郎は覚えていた。ふとした瞬間に乙姫が見せた、あの凍りつくような寂しい瞳を。
この煌びやかな城には、何か裏がある。漁師の勘がそう告げていた。
廊下は静まり返っている。
壁そのものがぼんやりと光っており、松明もないのに明るい。
「やっぱり、ここは不思議なところだ」
太郎は首をかしげながら、奥へ奥へと進んだ。
突き当たりに、ガラス張りの大きな部屋があった。
中を覗き込んだ太郎は、息を呑んだ。
「な……なんだ、これは」
部屋の空中に、数え切れないほどの「絵」が浮かんでいるのだ。
紙もないのに、光が絵を描いている。
そこに映っていたのは、太郎の知る海ではなかった。
どす黒く濁った水。
腹を上に向け、浜に打ち上げられた大量の魚たち。
奇妙なゴミに絡まり、苦しむ海鳥。
「地獄絵図……か?」
太郎には、そこに書かれている文字や数字の意味はわからない。だが、これが「今の海」の姿であることだけは、肌で感じ取れた。
「……見てしまいましたか」
鈴を転がすような、しかしどこか儚げな声がした。
太郎が振り返ると、そこには乙姫が立っていた。
昨日のきっちりとした白衣姿ではない。薄衣を一枚羽織っただけの、髪を下ろした姿だ。その無防備な姿に、太郎は思わずドキリとして目を逸らした。
「乙姫様、これは……」
「地上の現実です。太郎さん」
乙姫は太郎の横に並び、悲しげな瞳で宙に浮く「絵」を見つめた。甘い香りが、太郎の鼻をくすぐる。
「人間たちが捨てた毒や、溶けないゴミ……それらが海を殺そうとしています。私たち竜宮の民は、このドームの中で怯えながら生きるしかないのです」
「人間が…俺たちが、海を殺す?」
太郎は自分の手を見た。魚を獲り、海に生かされてきた手だ。そんなつもりはなかった。だが、目の前の絵は、それが罪だと告げている。
「もう、限界なのです」
乙姫の声が震えた。彼女はそっと、壁の一点を指差した。
そこに映し出されたのは、スヤスヤと眠るカメーリアの映像だった。
「だから、私は『カメーリア』を用意しました」
「あいつが、どうかしたのか?」
「あの子はただの亀ではありません。……竜宮が保有する、対地上浄化兵器。コードネーム『破壊の華』です」
「へ……? へいき?」
乙姫は、美しい顔を苦痛に歪め、続けた。
「あの子が本気になれば、地上の文明をすべて破壊することも可能です。……文字通り、すべてを『リセット』するために」
太郎は言葉を失った。
あの、偉そうで、食いしん坊で、ちょっと抜けているミドリガメが?
海を渡ってきた時の、あの巨大な怪獣のような姿を思い出す。あれは、乗り物などではなかったのだ。
彼女は、すがるような、潤んだ瞳で太郎を見上げた。
「でも……私は、怖いのです」
「乙姫様?」
「地上の人間を滅ぼせば、海は助かる。理屈ではわかっています。でも、私は……本当は、誰も傷つけたくない。誰の命も奪いたくないのです」
乙姫の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その涙は、真珠のように美しく、そしてあまりにも悲痛だった。
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