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童話異聞録「浦島太郎」

制作者: A5
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 10話で完結

概要

第9話 竜宮からの脱出
蒼月(そうげつ)
2025年11月25日 12:56 | 78
「飛び込め、太郎!」

カメーリアの叫びと共に、私たちはドックの縁から暗い海水へと身を投げた。 冷たい水が全身を包み込む。息ができない恐怖よりも、背後に迫る乙姫の追手への恐怖が勝っていた。

その瞬間、眩い緑の光が海中を照らし出した。

ゴオオオオオオ……!

水の振動が肌に伝わる。光の中から現れたのは、あの巨大な『海戦用ボディ』だった。 金属のように輝く甲羅、鋭い眼光。けれど、その目は私を優しく見下ろしていた。

「乗れ! 舌を噛むでないぞ!」

カメーリアの野太い声が頭に直接響く。私は必死で甲羅にしがみついた。 その背中は、鋼鉄のように硬いけれど、どこか温かかった。

「逃がすな! 撃てッ!」

背後から、無機質な指令が聞こえた。 振り返ると、ドームのハッチから無数の黒い影が飛び出してくるのが見えた。乙姫の親衛隊だ。彼らが乗っているのもまた、流線型の鋭いマシン──いや、武装したサメのような生体兵器だった。

ズドン! ズドン!

熱線のような光の矢が、私たちの横を掠めていく。 水中で爆発が起き、激しい水流が私を振り落とそうとする。

「くっ、しつこい奴らめ!」

カメーリアが巨体を翻す。 まるで戦闘機のような機動だ。上下左右、複雑な軌道を描きながら、迫りくる光弾を紙一重で回避していく。 私は甲羅の窪みに体を埋め、振り落とされないように指が白くなるほど力を込めた。

「しっかり掴まっておれ! 『海流ジェット』全開じゃ!」

カメーリアの足元から、青白い噴流がほとばしる。 加速。 景色が線になって後ろへ流れていく。

「逃がしませんよ……!」

通信機を通したような、乙姫の冷徹な声が海中に響いた。 前方から、巨大な壁のように展開する親衛隊の群れ。四方八方からの集中砲火。

「どけえええええッ!」

カメーリアが咆哮ほうこうする。 緑のバリアのような光が甲羅を覆った。真正面から敵の群れに突っ込む。 衝撃。火花。 敵の機体が弾き飛ばされ、私たちは包囲網を突破した。

「やったか……?」

私が顔を上げた、その時だった。

「甘い」

ドームの頂上付近、巨大な砲台がこちらを狙っていた。 エネルギーが充填される不気味な高音。

「いかん……!」

カメーリアが、咄嗟に体勢を変えた。 太郎を庇うように。背中を、敵の砲口に晒して。

ドォォォォォォォン!!

海全体が震えるような轟音。 極太の光の柱が、カメーリアの横っ腹を直撃した。

「ぐああああああッ!」
「カメーリア!!」

悲痛な叫び声と共に、カメーリアのバランスが崩れる。 それでも、推進力は止めなかった。

「止まるな……止まれば、終わる……!」

苦しげな声。でも、その意志は鋼のように強かった。 傷ついた体を引きずりながら、カメーリアは海面を目指す。 頭上に、太陽の光が揺らめいているのが見えた。 あそこまで行けば。あそこまで行けば、太郎たちの世界だ。

「うおおおおおおおおッ!」

最後の力を振り絞り、カメーリアが海面を突き破る。

ザパァァァァァァァン!!

水しぶきと共に、私たちは空へと舞い上がった。 青い空。白い雲。 懐かしい、潮の匂い。

そのまま勢いに任せて、私たちは砂浜へと滑り込んだ。 ズザザザザ……と砂を巻き上げ、ようやく止まる。

「はぁ、はぁ……」

私は震える足で、砂の上に降り立った。 ここは、物語の始まりの場所。あの浜辺だ。

「カメーリア、大丈夫か!?」

慌てて振り返る。 そこにはもう、巨大な怪獣の姿はなかった。 砂の上に、ポツンと。 手のひらサイズの、そして傷だらけの小さなミドリガメが転がっていた。
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このパートからの分岐 (1)
玉手箱

波の音が、遠くに聞こえる。ザザァ、ザザァ……。 太郎は、震える手で砂を払った。目の前には、もうあの巨...

クロマル クロマル
12/01 15:45
全階層の表示(15件)
第1話 助けた亀は… A5 0 121
・昔々あるところに、浦島太郎という若い漁師が住んでおりました。 浦島太郎は、熱い...
第2話 喋るミドリガメ、その名はカメーリア 蒼月(そうげつ) 1 82
・太郎は手のひらの上の小さな亀を、じーっと見ていた。 (これ、どう見てもミドリガメ...
第3話 海に帰れば クロマル 1 82
・太郎は波打ち際までやって来た。 手のひらの上で、カメーリアは目を輝かせている。...
第4話 ようこそ竜宮城へ!深海のドーム ケンヂ 0 68
・「しっかり掴まっておれよ」カメーリアの言葉を合図に、甲羅の輝きが極限まで高まった...
第5話 歓迎の宴、そして... 蒼月(そうげつ) 0 76
・乙姫の部屋を出ると、カメーリアが太郎の肩に飛び乗ってきた。 「さあさあ、貴様を...
第6話 『竜宮』の秘密 クロマル 0 68
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第7話 壊れた笑顔 蒼月(そうげつ) 0 77
・廊下を走る自分の足音だけが、やけに大きく響く。 ハア、ハア、と荒い息が喉を焼くよ...
第8話 緑の影 クロマル 0 73
・赤く点滅する廊下。 警報音が頭に響く。 自分の足音。息。 「はあっ、はあっ……!...
第9話 竜宮からの脱出 蒼月(そうげつ) 0 79
・「飛び込め、太郎!」 カメーリアの叫びと共に、私たちはドックの縁から暗い海水へ...
第10話 玉手箱 クロマル 1 109
・波の音が、遠くに聞こえる。ザザァ、ザザァ……。 太郎は、震える手で砂を払った。目...
第6話 破壊の華 クロマル 0 62
・翌朝。 深海の朝は、ドームの天井がぼんやりと青白く光ることで始まった。 「むに...
第7話 亀と漁師と男の意地 レュー 0 96
・乙姫の部屋を出た俺は、重たいため息をついた。 (あんな綺麗な人が、あんな悲しい顔...
第8話 約束 クロマル 0 87
・「……本気ですか」 再び訪れた制御室で、乙姫は信じられないものを見るような目で俺...
NEW 第9話 約束の果て、碧き海 クロマル 0 83
・太郎が地上に戻って、3年が経った。 あの時、乙姫は止めた。カメーリアが太郎につ...
第2話 浦島太郎は帰らない ケンヂ 0 74
・太郎は小さなミドリガメを海へ投げ捨てた。 「手が亀臭くなっちまったじゃねーか」...
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