童話異聞録「浦島太郎」
制作者:
A5
小説設定:
|
連続投稿: 可
|
投稿権限:
全員
|
完結数: 10話で完結
概要
「浦島太郎」のお話をベースに、違う結末にしていきたいと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
とりあえず、10話完結でやってみようかと思います。
「……本気ですか」
再び訪れた制御室で、乙姫は信じられないものを見るような目で俺を見ていた。
さっきまでの泣き顔は隠して、またあの少し疲れた管理者の顔に戻っている。でも、その声は隠しきれない動揺で揺れていた。
「ああ、本気だ」
俺は乙姫の目の前に立つと、真っ直ぐに彼女を見据えた。
「俺を地上に帰してくれ。人間たちに伝えて回る。海が死にかけてることも、あんたたちが怒ってることも。俺が見てきたこと全部、あいつらに叩き込んでやる」
乙姫は、ふっと自嘲気味に笑った。
「無理です。たった一人で何ができるというのです? データの蓄積によれば、人間の行動変容には数世代を要します。海はもう、そこまで待てない」
「やってやるさ」
俺は一歩、前に出た。
乙姫がビクリとして身を引こうとする。俺はその細い手首を、思わず掴んでしまっていた。
「俺は漁師だ。海が荒れたら船を出せないし、魚がいなけりゃ飯も食えない。海が怖いことも、大事なことも、身に染みてわかってる。…俺みたいなのが、地上にはもっとたくさんいるはずだ」
乙姫の瞳が揺れた。
その瞳の奥に、管理者としての「論理」と、一人の女性としての「迷い」が混ざり合っているのが見えた。
彼女はずっと一人で、この深海で、冷たい計算式と睨めっこしながら、誰かに止めてほしかったんじゃないだろうか。
「カメーリアも言ってたぞ。あんたの役に立ちたいって。あいつをただの兵器にして終わらせていいのかよ」
「……ッ」
乙姫が唇を噛む。掴んだ手首から、彼女の体温と、微かな震えが伝わってくる。
俺は、強引だったかと思って手を離そうとした。
でも、乙姫の手は逃げなかった。
「……怖かったんです」
消え入りそうな声だった。
「地上を滅ぼせば、あの子も壊れてしまうかもしれない。でも、何もしなければ海が死ぬ。私は…私はただ、この美しい場所を、みんなを守りたかっただけなのに」
張り詰めていた糸が切れたように、乙姫の肩から力が抜けた。
俺は、不器用だけど、精一杯の優しさを込めて言った。
「期間をくれ。俺が地上で足掻いて、それでもダメだったら…その時は、あんたの好きにすればいい」
乙姫は長いこと黙っていたけれど、やがてゆっくりと顔を上げた。
その目には、少しだけ光が戻っていた。
「……3年」
「え?」
「3年だけ、猶予を与えます。それが、この竜宮の維持システムの限界です。それまでに海の水質データに改善が見られなければ……その時は、計画通り『リセット』を実行します」
3年。
長いようで、あっという間だろう。世界を変えるには短すぎるかもしれない。
でも、可能性はゼロじゃない。
「わかった。3年だな」
俺は小指を突き出した。
「え……それは?」
「『指切り』だ。地上の、約束の印だよ」
乙姫はキョトンとしていたけれど、恐る恐る自分の小指を、俺の指に絡ませた。
ひんやりとして、細い指。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲ます」
「針? ふふ、人間は野蛮ですね」
乙姫が、初めて心の底から笑った気がした。
その笑顔は、昨日の宴の時よりも、ずっと綺麗で、可愛らしかった。
二人の指が解かれた時、部屋の入口からガタガタッという音がした。
振り返ると、カメーリアがスナック菓子の袋を抱えたまま、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「き、きき、貴様ら……! 神聖な制御室で、なんと破廉恥な……!」
「破廉恥じゃねーよ!」
俺たちの間に、温かい空気が流れた。
これなら、きっと大丈夫だ。
俺はそう信じて、地上への帰還を決意した。
再び訪れた制御室で、乙姫は信じられないものを見るような目で俺を見ていた。
さっきまでの泣き顔は隠して、またあの少し疲れた管理者の顔に戻っている。でも、その声は隠しきれない動揺で揺れていた。
「ああ、本気だ」
俺は乙姫の目の前に立つと、真っ直ぐに彼女を見据えた。
「俺を地上に帰してくれ。人間たちに伝えて回る。海が死にかけてることも、あんたたちが怒ってることも。俺が見てきたこと全部、あいつらに叩き込んでやる」
乙姫は、ふっと自嘲気味に笑った。
「無理です。たった一人で何ができるというのです? データの蓄積によれば、人間の行動変容には数世代を要します。海はもう、そこまで待てない」
「やってやるさ」
俺は一歩、前に出た。
乙姫がビクリとして身を引こうとする。俺はその細い手首を、思わず掴んでしまっていた。
「俺は漁師だ。海が荒れたら船を出せないし、魚がいなけりゃ飯も食えない。海が怖いことも、大事なことも、身に染みてわかってる。…俺みたいなのが、地上にはもっとたくさんいるはずだ」
乙姫の瞳が揺れた。
その瞳の奥に、管理者としての「論理」と、一人の女性としての「迷い」が混ざり合っているのが見えた。
彼女はずっと一人で、この深海で、冷たい計算式と睨めっこしながら、誰かに止めてほしかったんじゃないだろうか。
「カメーリアも言ってたぞ。あんたの役に立ちたいって。あいつをただの兵器にして終わらせていいのかよ」
「……ッ」
乙姫が唇を噛む。掴んだ手首から、彼女の体温と、微かな震えが伝わってくる。
俺は、強引だったかと思って手を離そうとした。
でも、乙姫の手は逃げなかった。
「……怖かったんです」
消え入りそうな声だった。
「地上を滅ぼせば、あの子も壊れてしまうかもしれない。でも、何もしなければ海が死ぬ。私は…私はただ、この美しい場所を、みんなを守りたかっただけなのに」
張り詰めていた糸が切れたように、乙姫の肩から力が抜けた。
俺は、不器用だけど、精一杯の優しさを込めて言った。
「期間をくれ。俺が地上で足掻いて、それでもダメだったら…その時は、あんたの好きにすればいい」
乙姫は長いこと黙っていたけれど、やがてゆっくりと顔を上げた。
その目には、少しだけ光が戻っていた。
「……3年」
「え?」
「3年だけ、猶予を与えます。それが、この竜宮の維持システムの限界です。それまでに海の水質データに改善が見られなければ……その時は、計画通り『リセット』を実行します」
3年。
長いようで、あっという間だろう。世界を変えるには短すぎるかもしれない。
でも、可能性はゼロじゃない。
「わかった。3年だな」
俺は小指を突き出した。
「え……それは?」
「『指切り』だ。地上の、約束の印だよ」
乙姫はキョトンとしていたけれど、恐る恐る自分の小指を、俺の指に絡ませた。
ひんやりとして、細い指。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲ます」
「針? ふふ、人間は野蛮ですね」
乙姫が、初めて心の底から笑った気がした。
その笑顔は、昨日の宴の時よりも、ずっと綺麗で、可愛らしかった。
二人の指が解かれた時、部屋の入口からガタガタッという音がした。
振り返ると、カメーリアがスナック菓子の袋を抱えたまま、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「き、きき、貴様ら……! 神聖な制御室で、なんと破廉恥な……!」
「破廉恥じゃねーよ!」
俺たちの間に、温かい空気が流れた。
これなら、きっと大丈夫だ。
俺はそう信じて、地上への帰還を決意した。
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