読み込み中...

童話異聞録「桃太郎」

制作者: A5
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 15話で完結 | 文字数制限: 4,000文字

概要

第8話 猿ではなく人
冬至梅
2025年12月16日 10:23 | 67
海へと続く道を、桃太郎と健は並んで歩いていました。健は時折、横を歩く桃太郎をちらちらと見ていましたが、旅装束に身を包んだその姿から、女であるとは夢にも思っていない様子でした。

「もうじき海だ。ここまで来れば、引き返すことはできない」

「ああ。覚悟はとうに決めている」

 健は短く答え、前を見据えました。

 その時です。丘の麓に、不穏な気配が漂っているのに二人は気づきました。
 一人の武士が、弓を構えて立っています。その視線の先には、一本の木。そして――その幹には、小柄な男が縄で縛り付けられていました。男の頭の上には、木の的があります。

「……まさか」

 健が言葉を失う間にも、武士は矢を引き絞ります。ひゅん、と乾いた音がして、矢は放たれました。矢は真っ直ぐに飛び、見事、的の中心を射抜きます。
 その真下にいた男は、顔を引きつらせながらも、凍りついた笑みを崩さずに声を上げました。

「お、お見事にございます!」

 その様子を見て、もう一人の若い武士がはしゃいだ声を上げます。

「兄者、次はわしが」

 弟らしきその武士は弓を受け取り、楽しげに構えました。

「動くなよ、猿!」

 ももの胸に、強い怒りが込み上げました。考えるよりも先に身体が動き、ももは丘を駆け降りていきます。

「おい! 待て!」

 健の制止の声が背後から響きますが、ももは止まりません。

「やめろ!」

 叫び声とともに駆け寄り、桃太郎は木に縛り付けられた男の縄に手をかけました。刃を入れると、縄は簡単に切れます。

「大事ありませんか」

 男は呆然としながら、ただ何度も頷きました。

「小僧! なにゆえの邪魔立てか!」

 二人の武士が怒声を上げ、桃太郎を睨みつけます。

「人を的にして弓の稽古など、あまりに非道。恥を知れ!」

 桃太郎がきっぱりと言うと、兄と思しき武士は鼻で笑いました。

「くだらん! こやつはの、百姓にも商人にもなれぬゆえ、己を猿と称して、我らに媚びへつらうしか脳のない男よ」

 弟もせせら笑います。

「そうじゃ。我らのおかげで飯が食えておるのよ、この猿は! 有難いと思うておるに違いないわ!」

 その言葉に、ももの拳が震えました。一歩前に出て、強く言い放ちます。

「……猿じゃない……! 人だ!」

 その声を聞いた瞬間、縄を解かれた男の目に、涙が滲みました。

「人……? 猿ではなく……人?」

 信じられないものを見るように、男は桃太郎を見つめています。
 二人の武士は怒りに顔を歪め、ゆっくりと距離を詰めてきました。静まり返った丘の麓で、剣呑な空気が張り詰めます。
この小説をシェア
このパートからの分岐 (1)
新しい仲間たち

「|桃兄《ももにい》、下がっててくれ。こんな奴ら俺一人で十分だ」 (健は桃太郎のことを桃兄と呼ぶよう...

蒼月(そうげつ) 蒼月(そうげつ)
12/17 17:05
全階層の表示(17件)
第1話 川上からの贈り物 A5 1 81
・昔々あるところにお爺さんとお婆さんがいました。 お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さ...
第2話 若返りの桃 冬至梅 0 75
・お婆さんは家に戻ると、早速手ぬぐいから桃を取り出しました。包丁を手に取り、そっと...
第3話 秘めたる決意 あさり 1 75
・あれから数年の時が流れました。 藤兵衛とおねの愛情を一身に受けて育ったももは、...
第4話 不思議な出会い 冬至梅 0 62
・もも改め桃太郎は、夜明けの薄明かりを背に家を後にしました。  海までは、それな...
第5話 日ノ本一のきび団子 冬至梅 0 67
・老婆の家は、竹林の奥にひっそりと建っていました。 「さあさ、遠慮せんと入りなさ...
第6話 暴れ犬の健 蒼月(そうげつ) 1 62
・翌朝、ももは老婆に深々と頭を下げました。 「お婆さん、本当にありがとうございまし...
第7話 驕りの刃 さんぽ 1 60
・健が太刀を抜くと、空気を裂くような鋭い音が、ももの耳を打ちます。 その音は、命の...
第8話 猿ではなく人 冬至梅 1 68
・海へと続く道を、桃太郎と健は並んで歩いていました。健は時折、横を歩く桃太郎をちら...
第9話 新しい仲間たち 蒼月(そうげつ) 0 57
・「|桃兄《ももにい》、下がっててくれ。こんな奴ら俺一人で十分だ」 (健は桃太郎の...
第10話 迷い クロマル 0 59
・五人の旅は、日に日に賑やかになっていました。 猿吉は先頭に立ち、持ち前の身軽さ...
第11話 妖艶の宴 クロマル 0 43
・館の門をくぐると、朱塗りの廊下が奥へと続いていた。 壁には金箔の屏風。天井からは...
第12話 傾奇者 蒼月(そうげつ) 0 27
・宿場町の大通り。 昼下がりの陽射しが、往来に長い影を落としていた。 桃太郎一行...
第13話 鎖鎌の朱雉 蒼月(そうげつ) 0 22
・街道に出ると、人通りが減った。 木々が両側から迫り、空が細く切り取られている。...
第2話 祝福 クロマル 0 55
・お婆さんが川から持ち帰った桃をまな板に乗せ、包丁を手に取ったその時、玄関の戸が勢...
第3話 旅立ち 蒼月(そうげつ) 0 31
・あれから十数年の月日が流れました。 竹から生まれたかぐやは、お爺さんの予言通...
第4話 山の暴れん坊 レュー 0 27
・少年の名は金太郎。 足柄山で熊を相手に相撲をとって育ったという、まさに野生児だっ...
NEW 第5話 恩返し クロマル 0 39
・三人は山道を歩いていた。 木漏れ日。苔むした岩。遠くで鳥の声。 「なあ、鬼ヶ...
コメント
コメントを投稿するにはログインしてください。

ユーザー登録でみんつぐをもっと楽しもう!

お気に入りの小説の更新通知が届く

フォローした作家の新作をすぐに確認

好きな作品にいいね・コメント

感動を作者に直接届けられる

マイページで投稿を管理

自分の作品やいいねを一覧で確認

小説を書いてリレーに参加

新作を始めたり続きを自由に書ける

気になる作家をフォロー

好きな作家の新作をすぐチェック

分岐ツリーで展開を可視化

ストーリーの分岐を一目で確認

他にもみんつぐを楽しく便利に使う機能が充実!

無料で新規登録

すでにアカウントをお持ちの方は