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童話異聞録「桃太郎」

制作者: A5
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 15話で完結 | 文字数制限: 4,000文字

概要

第13話 鎖鎌の朱雉
蒼月(そうげつ)
2026年01月04日 21:18 | 21
街道に出ると、人通りが減った。
木々が両側から迫り、空が細く切り取られている。

「さっきの奴、しつこかったな」
風太が言った。
「ああいうの苦手だわ」
雷蔵が頷く。

健は黙っていた。
さっきから、妙に胸がざわついている。
(あの野郎……桃兄に色目使いやがって……)
理由はわからない。ただ、腹が立った。

「――止まれ」
桃太郎が足を止めた。
「どうした」
「囲まれている」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに。
木々の間から、男たちが現れた。

十人。
二十人。

「へっへっへ……」
頭らしき大男が、錆びた刀を肩に担いで笑った。
「運が悪かったな、坊主ども。身ぐるみ置いてきな」
山賊だ。
健が太刀に手をかける。雷蔵と風太が弓を構える。猿吉が腰を落とす。

だが、二十人。
多すぎる。

「くそっ……」
健が歯を食いしばる。

桃太郎が短刀を抜いた。
だが、その額にも汗が滲んでいる。

四方から迫る山賊たち。
じりじりと距離が詰まる。

「終わりだな、坊主」
大男が刀を振りかぶった。

その時だった。

ひゅん。
空を裂く音。
大男の刀が、弾き飛ばされた。

「な――」
「よぉ」
声がした。

木の上から、一人の男が飛び降りてきた。
真紅の着流し。逆立った髪。耳に揺れる飾り。

「てめぇ……さっきの!」
健が叫ぶ。
傾奇者は鎖鎌を構え、にやりと笑った。
「よう、犬っころ。苦戦してんじゃねぇか」
「誰が犬だ!」
「まぁ見てろって」

傾奇者が地を蹴った。
鎖が唸る。鎌が閃く。
一人、二人、三人。山賊たちが次々と倒れていく。
その隙に、桃太郎たちも動いた。
健の太刀が閃き、雷蔵と風太の矢が飛ぶ。猿吉が山賊の足を払い、桃太郎が懐に飛び込んで短刀を振るう。

あっという間だった。

二十人の山賊は、全員地面に転がっていた。
「……終わったか」
健が息を吐いた。
傾奇者は鎖鎌を腰に戻し、桃太郎の方を向いた。
「よう、桃の旦那」
「……なぜ助けた」
「なぜって? 面白そうだったからに決まってんだろ」
肩をすくめる。

「あんた、鬼ヶ島に行くんだろ?」
桃太郎の目が細くなった。
「なぜ知っている」
「噂だよ噂。悪党を懲らしめて回ってる連中がいるってな」
「……ああ」
「俺も連れてけよ」
「断る」
「冷てぇな。さっき助けてやっただろ」
「礼は言う。だが、仲間にはしない」

傾奇者は大げさに肩を落とした。
「まぁそう言うなって。俺の名は朱雉。鎖鎌の朱雉あかきじってな、この辺じゃちょっとは知られてんだぜ」
「知らん」
「ひでぇな」

朱雉はけらけらと笑った。
「まぁいいさ。勝手についてくから」
「……好きにしろ」
桃太郎は溜息をついて歩き出した。

健が朱雉を睨む。
「おい。変なことしたら承知しねぇぞ」
「安心しろよ。俺ぁ振られた相手には二度は迫らねぇ主義だ」
「……本当だろうな」
「本当本当」

朱雉は口笛を吹きながら、桃太郎の後を追っていった。
後ろで、猿吉が呟いた。
「……また賑やかになりそうっすね」
六人になった一行は、潮風の匂いが微かに混じり始めた街道を、鬼ヶ島へ向けて歩き出した。
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