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童話異聞録「桃太郎」

制作者: A5
小説設定: | 連続投稿: | 投稿権限: 全員 | 完結数: 15話で完結 | 文字数制限: 4,000文字

概要

第10話 迷い
クロマル
2025年12月20日 20:49 | 58
五人の旅は、日に日に賑やかになっていました。

猿吉は先頭に立ち、持ち前の身軽さで道を切り開きます。雷蔵と風太の兄弟は、時折じゃれ合いながらも、以前のような傲慢さは影を潜めていました。
健は相変わらず桃太郎の傍を離れず、何かあればすぐに手を貸そうとします。

「桃太郎さんはよ、なんであんな強ぇんだろうな」

ある日の夕暮れ、川辺で休憩を取っていた時のことです。雷蔵がふと、風太に小声で話しかけました。

「わかんねぇ。でもよ、時々思うんだ」
「何を」
「もしかして桃太郎さんって……女なんじゃねぇかって」

その言葉を、少し離れた場所で水を汲んでいた健が聞いてしまいました。
竹筒を持つ手が、ぴくりと止まります。

「いやだってさ、やけに所作が色っぽいっていうか……なんつーか、しなやかっていうか」
「馬鹿か。あれは武芸の動きだろ」
「でもよ、髪を結い上げる時の指先とか、食事の時の箸の持ち方とか……」

健は思わず二人のもとへ歩み寄り、問いただしました。

「どうした。何の話だ」
「いえね、もしかしたら桃太郎さんって、女性なんじゃねぇかって」
「はぁ? 何言ってやがんだ」
「いえすんません、やけに所作が色っぽいというか、なんていうか……」

健の眉がぴくりと動きました。

「ふざけんな!桃兄が女な訳ねぇだろ。そりゃすげぇ美男子だと思うけど。恩人の桃兄を侮辱するようなこと言うとゆるさんぞ!」
「すんません、すんません」

雷蔵と風太は慌てて頭を下げます。
健はフンと鼻を鳴らして踵を返しましたが、その足取りはどこか落ち着きませんでした。

(全く、あいつらときたら……)

そう思いながらも、健の視線は無意識に桃太郎を追っていました。
川辺で猿吉と何やら話している横顔。夕日に照らされた頬の輪郭。風に揺れる後れ毛。

(……やめろ、俺)

健は頭を振りました。けれど、一度意識してしまったものは、そう簡単には消えてくれません。

「どうした、健」
不意に声をかけられ、健は飛び上がりそうになりました。振り向くと、桃太郎がすぐ傍に立っていたのです。
「い、いえ、なんでもねっす」

声が上ずってしまいました。桃太郎は不思議そうに首を傾げます。その仕草が、また妙に……。

(俺、そっちの気はねぇはずなのに……いけねぇ、いけねぇ)

健は顔を背け、わざとらしく咳払いをしました。

「ちょっと、水汲んでくる」
「さっき汲んだばかりでは…」
「い、いいんすよ!」

そう言い捨てて、健は足早にその場を離れました。残された桃太郎は、きょとんとした顔で健の背中を見送っています。
その様子を、少し離れた場所から見ていた猿吉が言いました。
「……なんか、健の旦那、おかしくねぇですか」

***

翌日、一行は街道沿いの大きな宿場町に辿り着きました。

すると、町の入り口で二人の侍が待ち構えていました。
「お待ちしておりました。あなた方が、噂の五人衆でございますね」
健が警戒して前に出ます。

「噂だと?」
「はい。悪党どもを懲らしめ、弱きを助ける若者たちがいると。我が主の江角えずみが、ぜひ館へお招きしたいと仰せです」

五人は顔を見合わせました。
江角といえばこの辺りを取り仕切ってる大領主です。

「…どうする、桃兄」
「断る理由はない。行ってみよう」

桃太郎が頷くと、一行は侍に先導されて、町の奥にある立派な館へと向かいました。
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このパートからの分岐 (1)
妖艶の宴

館の門をくぐると、朱塗りの廊下が奥へと続いていた。 壁には金箔の屏風。天井からは絹の飾り布が垂れ下が...

クロマル クロマル
12/24 22:47
全階層の表示(17件)
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第10話 迷い クロマル 0 59
・五人の旅は、日に日に賑やかになっていました。 猿吉は先頭に立ち、持ち前の身軽さ...
第11話 妖艶の宴 クロマル 0 43
・館の門をくぐると、朱塗りの廊下が奥へと続いていた。 壁には金箔の屏風。天井からは...
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